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咲良の徒然気まま日記。 ゲームやらアニメやら漫画やらの感想考察などをつらつらと。 しばらくは、更新のお知らせなどもここで。

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2007'01.01.Mon

Real voice3 2007.12.29 comingsoon

 



 MCTという略称に何となく聞き覚えがあった。
 タワーの最上階にある薄暗い部屋で、ラクスは組み合わせた手を顎に当て沈黙していた。
 アスランにも言えなかった記憶だ。それは隠そうと思ったからではなく、自分の記憶に確証が持てなかったから。
 目の前に広げたままになっているのは、ラクスが代表になる以前――父であるシーゲルが代表を勤めていた頃の組織のことが書かれているものだ。
前代表であるシーゲル・クラインとパトリック・ザラは、記憶媒体というものを嫌った。ネットワーク内で情報が行き交う、そんな危険なところに自分たちの組織の機密を置きたくないと言った。ラクスがそれを聞いたのは、組織ができて間もない頃。まだ、将来自分が組織を背負って立つなどと想像もしていなかった頃だ。
 残されたこの書物は特殊な鍵がかかっていて、組織内ではラクスとアスランしかそのキーとなるパスワードを知らない。だが必要になることなど今までになく、ほぼ毎日この部屋に通いつめているラクスでさえ、手に取ったのはこれが初めてだった。
(……どんな繋がりが?)
 これを開き、関連する事項を読み進めた今でも、ラクスにはよくわからなかった。
 今晩彼らが向かったMCT研究所と、この組織――というよりは、シーゲルとパトリックだ――は、何らかの繋がりがある。だが、それが何だかわからない。
(せめて、連絡が取れたら)
 ラクスに代表の座を譲ってから、シーゲルは姿を消した。ラクスの母は定期的に会っているようなのだが、意図的なのか何なのかラクスはあれ以後父の姿を見ていない。
 時々送られてくるメールと、屋敷の子供たちに宛てたプレゼントや手紙で息災だと知らせてはくる。が、それだけだ。
 こちらからの連絡手段はすべて封じられており、アスランの追跡にも尻尾すら掴ませない徹底振り。組織を裏から守る、そう言ったからには、おそらくこちらの目の届く範囲に潜んでいるはずなのに。
 ラクスの記憶は少しおかしい。忘れてしまうほど幼少の頃のことではないのに、どんなに思い出そうとしても靄がかかったままなのだ。
 あまり考えたくないが、もしかしたら、自分は――。
『ラクス? いるのか?』
「!」
 ノック代わりの電子音に続いて聞こえてきた声は、カガリのものだった。はっと顔を上げると目の前の資料を閉じ鍵をかけ、立ち上がる。
「いますわ。……どうぞ」
 開錠し扉に歩み寄ると、シュンと軽い音を立てて開いた扉の前に、無造作に髪を束ね大きな紙袋を抱えたカガリがいた。
「どうしたんですの? その荷物」
「ラクスのとこ行くって言ったら、アスランに持たされた」
「アスランに? 彼は今任務じゃ……」
「うん、さっき出てった」
 入っていいかと目線で訊ねるカガリを、どうぞと中へ招き入れる。
ラクスのこの部屋に簡単に入ってくる人はそういない。後継者であるアスランと、秘書のマリュー、そして自分の補佐をしてくれるカガリ。この三人くらいだ。
「中身は?」
「見てないよ。アスランからのものなら間違いないだろ」
 笑ってそう言い、カガリは紙袋をソファへと下ろした。ラクス宛のものは一度カガリとマリューがチェックを入れ、それから自分のところへ回ってくる。一度、代表宛の依頼品に爆発物が混ざっていたことがあって、それ以来この体制が取られていた。
あの時はたまたまアスランが共にいて、荷物の微妙な変化に気付いて自分を庇った。
 それは、代表に立って1年目のこと。そんな事件から4年。アスランがあの時に負った傷は、きっとまだ痕が残っているだろう。
「あと、伝言。何かあったらすぐに連絡を、ってさ」
「…………」
 荷物の横に腰を下ろしたカガリを見る。カガリも真っ直ぐにラクスを見つめていて、その表情は明るい声音から推測できるほど笑っていなかった。
「何かあったら、って、たぶん留守中の心配じゃないよな?」
 肩を竦め、カガリはラクスを窺うように目を細めた。幼い頃から共に育ったカガリには、ラクスは嘘をつけない。いや、正確には嘘をつけないのではない。たとえついたとしても、表情で、声音で、微かな変化で見破られてしまうのだ。
 だから彼女の視線に、ラクスは困ったように微笑ってみせた。
「今回の任務のことで何か知ってるのか? ラクス」
「知っている、という確証はありませんわ」
「アスランが寄越したソレ、たぶん私をラクスの所へ行かせる口実だと思う。今回、現地と連絡を取れるのは私だけになってるから」
 紙袋の中身を覗く。中には大きなぬいぐるみのようなものが入っているようだ。
「アスランは……時々怖いですわね」
「キラとラクスのこととなると怖いよな。今回はどっちだ?」
 呆れたようなカガリの物言いにふふっと笑い、ラクスもカガリの前に腰を落ち着けた。隣の部屋にはマリューがいて、お願いすればすぐに飲み物を用意してくれるだろう。だが今はそんな気分になれない。落ち着かないのだ。
「もしかしたら、キラ、かもしれません」
「キラ? ラクスじゃなくて?」


     *     *


 管制室の上部に設置されたモニターを凝視しているシンを、ステラが不思議そうに見上げた。
 ステラはピンク色のペットロボと戯れている。約10年前、シンがステラを起こしたときに、ひとりでは何もすることがないだろうと与えたものだった。
 設計図は誰かがシンの中に入れていったもの。シンはそれを実現させただけ。そのおもちゃには、ハロという名称がついていた。
 モニターに映るのは、このメインルームを目指して進んでくる4つの人影。メインルームは今シンたちがいる管制室と続いている。ガラスの扉一枚を隔てた先が、シンが生まれた場所――メインルームだ。
 今は空になったマザーコンピュータ。敷地内のすべての管制は、すべてシンがここから行っていた。ここからと限定されるわけではないが、すべての様子を一眸できるのはモニターがあるこの場所だけだった。
「…………」
 シンが黙ったままなので、ステラも黙ったままだ。
 けれどそれにも飽きたのか、それともハロに歌えと強請られたからなのか、ステラが前触れもなく歌い始める。
 シンは少しだけ目を細め、眠っていた己の中の記憶を呼び起こす。
 彼女は決しておしゃべりな方ではなかった。シンが口を開かなければ、太陽が昇ってまた沈んで行くまで一言も発しないこともある。
 メンテナンスにもなるから口を動かして、と言ったシンに、彼女は歌でもいいのかと訊ねてきた。頷いたシンに、ステラは微笑んで歌い始めた。……それが、彼女が始めて歌声を聴かせてくれた日。
 この歌は、『ステラ』が歌っていたもの。シンに何度も聴かせてくれたもの。
 優しい音色。優しい声。風のようにシンを包んで消えていく歌声は、シンの記憶するステラの声そのものだ。
 膝の上にハロを乗せて、彼女は静かに歌い続けていた。シンが自分を見ていることに気づくと、小首を傾げてにこりと微笑む。
 ステラがこの歌を歌うと、今でもシンの回路は微かな狂いを訴える。
 それが何か、シンは知らない。……知る術もない。
 今はもう、シンに感情を教えてくれる人物は、世界のどこにも存在しなかった。


     *     *


「……ステラ」
 呼ぶ声に、ステラが振り返った。シン、と嬉しそうな声を出して彼女は走り出す。
 メインルームの最奥にあった扉が開いて――シンが、扉の向こう側に立っていた。
「シン……」
 キラはまた、更に一歩前へ進む。怖いとか、恐れとか、不安とか、そういうものはやはり何もなかった。
 ため息をついたアスランが後ろの二人へ何か指示するのを頭の片隅で捉えながら、キラの視線も神経もすべて目の前の少年少女に注がれていた。
 何を言うべきなのか、迷う。
 アスランだったら、こういうときすらすら言葉が出てくるのだろうが。だがそのアスランは、何を考えているのか先程から黙ったままだ。
「遅くなって……ごめん」
 結局、キラはそう呟いていた。
「会いに来たんだ。――僕の神様」


 

『Real voice3』より一部抜粋

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