2007'02.04.Sun
その日、アスランが帰宅したのは、日付が変わって短針がもう一周してしまった後だった。
タクシーから降りて、ふと自分たちの部屋の明かりを見上げる。
こんな時間だというのにリビングには明かりがついているようだ。いつもなら先に布団に入ってしまうはずなのに、どうしたのだろう。
(……あ)
そういえば、昼間キラから何度もメールが来ていた。
今日の予定をしつこいくらい確認してきて、できれば早く帰ってきて、とも言われた。だが予定は変更がきかないものだったし、無理だよと宥めておいたのだが。
夜も何度かメールがあって、ここに帰ってくる少し前には携帯が鳴ってワンコールで切れた。
(何か、あったのかな)
エレベーターのボタンを押し扉ガ閉まる。上昇するエレベーターの中で、アスランは眉をひそめた。
自分もそうだが、キラは他人の評価や態度に敏感だ。何かあっては生き抜いていけないこの世界だからこそのことだ。
だが過敏になりすぎて、立ち直るのに時間がかかるときがある。そういうときは、お互いに寄りかかって支えあって、そうしてまた元の『自分』に戻る。
(今日……キラの予定って何だったかな)
ほとんど把握しているものの、細かい取材や小さな仕事のことまでは頭に入りきっていない。今日のキラは変則的なCM撮影で、空き時間が長い……といっていたような。
「ただいま」
玄関の扉を開け、声をかけてみる。中はしんとしていて、テレビの音も聞こえない。
おや、と首をかしげて靴を脱ぎ、リビングに足を運んで。
「キラ?」
ソファからはみ出している茶色い髪に気付いて呼びかけてみる。
返事がなく、まさかと思いながら前へ回り込むと――彼はソファに寄りかかった姿勢でくぅくぅと寝息を立てていた。
「こら。こんなところで寝るなよ。……キラ」
幾分強めに呼びかけるが、起きる気配なし。
ったく、と溜息をついて、邪魔な上着を脱ぎ捨てるとアスランはキラの部屋の扉を開いた。あのまま寝かせては疲れがとれないだろうから、ベッドまで運んでやるのだ。
ドアを開け、ベッドの布団を寝かせやすいように捲って、再度ソファに戻る途中。
「……?」
いつもはそこにないモノに気付いて足を止めた。
白い箱だ。
ダイニングのテーブルの上に、四角い箱が乗っている。
何かもらってきたのかと、ナマモノじゃないだろうな、などと考えながら何気なく手を伸ばし、ふたを取って――。
「っ……」
アスランは息を呑んでしまっていた。
中に入っていたのは、白くて丸い、小さなホールケーキ。
アスランの好きなフルーツがたくさん乗った、バースデーケーキだ。
すっかり頭から抜けていた。日付が変わったら、もう29日――アスランの誕生日だったのだ。
(だから、か?)
早く帰ってきてと言ったキラの言葉の意味に今更ながらに気付き、アスランは困ったように眉を下げた。
日付が変わったら、真っ先に、誰よりも先に、一番に、おめでとうと言いたい。
少し前に関係の変わった自分たちの、初の記念日だった。だから、とキラはそう言っていた。
なのに。
「ごめん……」
寝息を立てるキラの前に跪き、呟いてみる。
キラはきっと、自分の帰りを待っていてくれた。
と、そのとき。
携帯が小さく震えて、メールの着信を知らせた。こんな時間になんだろうと見てみると、差出人は目の前の彼だった。
よく見れば、時間はもっと前……日付が変わった直後のものだ。
何らかの原因でメールの到着が遅れたらしい。役立たずと携帯に向かって悪態をつき、メールを開く。
「……ぷ」
画面に映る、おめでとうの文字。
少しだけの愚痴と、少しだけの文句。
そして。
「明日の朝はキスで起こして、……か」
少しだけの、甘えた言葉。
「了解」
キラの寝顔に呟いて、彼を抱き上げ部屋へ運ぶ。
誕生日が嬉しいと思ったのは、この世界に入って初めてかもしれない。
アスランは思わず口許が緩むのを止められずにいた。
タクシーから降りて、ふと自分たちの部屋の明かりを見上げる。
こんな時間だというのにリビングには明かりがついているようだ。いつもなら先に布団に入ってしまうはずなのに、どうしたのだろう。
(……あ)
そういえば、昼間キラから何度もメールが来ていた。
今日の予定をしつこいくらい確認してきて、できれば早く帰ってきて、とも言われた。だが予定は変更がきかないものだったし、無理だよと宥めておいたのだが。
夜も何度かメールがあって、ここに帰ってくる少し前には携帯が鳴ってワンコールで切れた。
(何か、あったのかな)
エレベーターのボタンを押し扉ガ閉まる。上昇するエレベーターの中で、アスランは眉をひそめた。
自分もそうだが、キラは他人の評価や態度に敏感だ。何かあっては生き抜いていけないこの世界だからこそのことだ。
だが過敏になりすぎて、立ち直るのに時間がかかるときがある。そういうときは、お互いに寄りかかって支えあって、そうしてまた元の『自分』に戻る。
(今日……キラの予定って何だったかな)
ほとんど把握しているものの、細かい取材や小さな仕事のことまでは頭に入りきっていない。今日のキラは変則的なCM撮影で、空き時間が長い……といっていたような。
「ただいま」
玄関の扉を開け、声をかけてみる。中はしんとしていて、テレビの音も聞こえない。
おや、と首をかしげて靴を脱ぎ、リビングに足を運んで。
「キラ?」
ソファからはみ出している茶色い髪に気付いて呼びかけてみる。
返事がなく、まさかと思いながら前へ回り込むと――彼はソファに寄りかかった姿勢でくぅくぅと寝息を立てていた。
「こら。こんなところで寝るなよ。……キラ」
幾分強めに呼びかけるが、起きる気配なし。
ったく、と溜息をついて、邪魔な上着を脱ぎ捨てるとアスランはキラの部屋の扉を開いた。あのまま寝かせては疲れがとれないだろうから、ベッドまで運んでやるのだ。
ドアを開け、ベッドの布団を寝かせやすいように捲って、再度ソファに戻る途中。
「……?」
いつもはそこにないモノに気付いて足を止めた。
白い箱だ。
ダイニングのテーブルの上に、四角い箱が乗っている。
何かもらってきたのかと、ナマモノじゃないだろうな、などと考えながら何気なく手を伸ばし、ふたを取って――。
「っ……」
アスランは息を呑んでしまっていた。
中に入っていたのは、白くて丸い、小さなホールケーキ。
アスランの好きなフルーツがたくさん乗った、バースデーケーキだ。
すっかり頭から抜けていた。日付が変わったら、もう29日――アスランの誕生日だったのだ。
(だから、か?)
早く帰ってきてと言ったキラの言葉の意味に今更ながらに気付き、アスランは困ったように眉を下げた。
日付が変わったら、真っ先に、誰よりも先に、一番に、おめでとうと言いたい。
少し前に関係の変わった自分たちの、初の記念日だった。だから、とキラはそう言っていた。
なのに。
「ごめん……」
寝息を立てるキラの前に跪き、呟いてみる。
キラはきっと、自分の帰りを待っていてくれた。
と、そのとき。
携帯が小さく震えて、メールの着信を知らせた。こんな時間になんだろうと見てみると、差出人は目の前の彼だった。
よく見れば、時間はもっと前……日付が変わった直後のものだ。
何らかの原因でメールの到着が遅れたらしい。役立たずと携帯に向かって悪態をつき、メールを開く。
「……ぷ」
画面に映る、おめでとうの文字。
少しだけの愚痴と、少しだけの文句。
そして。
「明日の朝はキスで起こして、……か」
少しだけの、甘えた言葉。
「了解」
キラの寝顔に呟いて、彼を抱き上げ部屋へ運ぶ。
誕生日が嬉しいと思ったのは、この世界に入って初めてかもしれない。
アスランは思わず口許が緩むのを止められずにいた。
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