2008'07.24.Thu
*-*-*-*-*-*
季節は春。……を通り越して、すでに初夏へと向かっていた。
汗をかいたペットボトル弄びながら、キラはちらりと視線だけ上にあげる。キラのいる木陰より少し先に設置されたパラソルの下に、スタイリストさんと話しながら髪を整えられているアスランの姿がある。
(……なんっか、妙な感じ)
蓋を開けて、ペットボトルのミネラルウォーターを喉に流し込んだ。
初夏とはいえ気温は思ったよりあがっていて水辺が近いせいか湿気もある。日に焼けると困るなあ、と考えて、キラは苦笑した。
日に焼けて困るのはアスランで、キラではない。彼は体質なのか日に焼けると肌が赤くなり大変なことになるのだ。キラは焼いたって紅くも痛くもならず即座に黒くなってしまうのに。
「キラ、お前も直し」
「あー、うん」
アスランが振り返り、キラを呼ぶ。ペットボトルに蓋をして傍にいたスタッフに預けるとキラは立ち上がった。
妙な感じだなぁと思うのは、たぶん彼の髪型のせいなのだろうと思う。間近でそれを見るとますます妙な感覚に襲われて、なんというか、こう、首のあたりがむずむずするような違和感にキラは首を竦めた。
「暑いな」
空を見上げてアスランが呟く。
同じように空を見ることで同意を示して、キラはもう一度アスランの姿をちらりと盗み見た。
今の彼はいつも無造作に下ろしている髪を後ろへ流して、髪の一部分をゆるく縛り軽くクセ毛のようなカールをつけられている。もともと少しクセ毛ではあったけれど、ほぼ真っ直ぐな髪型に慣れてしまっていたから、別人のように見えて仕方ない。
とはいえ、キラも今日はスタイリストさんたちに好きなように弄られていた。襟足を上げられてしまっているので首元が何だか涼しい。
「まぁ僕も大差ないか……」
「何が」
「あ」
思ったことが口に出てしまった。
キラを振り返った彼は怪訝そうにこちらを見ている。
「えーと」
言葉を探して視線を彷徨わせる。直視できない――のは、あれだ。そう、アレ。
認めたくないのだけれど、何と言うか。
「アスランくん、キラくん、始めるよー」
「あ、はい!」
気心の知れたスタッフとカメラマンなので、今日のスチル撮りは和やかだった。
少しばかり季節に外れたキャンプ場は閑散としていてギャラリーもいない。それを何故かよかったなーと思っている自分がいて、キラは笑ってしまう。
「……なんだよさっきから」
アスランがやはり訝しげな視線を投げてきて、キラはますます笑ってしまう。
用意されている炭を入れて、火をおこして網を乗せ。
カシャカシャと鳴り続けるシャッター音を気にしないようにしながら、アスランの顔を覗き込む。
「惚れ直しただけだよ、君に」
「はっ?」
ぽかん、と目を丸くした彼に、キラはぷっと吹き出した。ああやばい、シャッター押されてる。
(もったいないなあ)
本当は。彼のこういう表情とか、いつもと違う仕草とか、ぜんぶキラのものにしてしまいたいのだけれど。
「かっこいいなあ、って。独り占めしたかったなーって」
「…………俺を?」
少しの間をあけて、彼が訊ねてくる。
撮りのことはちゃんと頭に入っているので、二人とも会話をしながらも手と体を動かしつつ。
「うん。でも、こういうときの君はみんなのものなんだよね」
「キラ」
「でもアスランは僕のだーって主張したくなって」
「すればいいのに」
「誰に!」
「うーん、スタッフに?」
「してどうするのさ」
笑いながら作業を進める。スタジオや決まった場所での撮影と違って、こういう流れのある撮影は楽しい。
アスランと会話ができるのも嬉しい。
ただ、こういうときは彼も自分も素の表情をしてしまうことが多くて……それだけが悔しいというか何と言うか。
肉を串に刺しながらアスランを見ると、彼がにやっと笑った。
何となく、人の悪い笑み。
(あー、シャッターきられてる……)
そんな悪人面でいいの、君。などと思いつつ首を傾げると、アスランが近付いてきて。
「っ!?」
こつん、と額が重なった。
「ああああアスランっ!?」
慌てふためきじわじわと赤くなるキラの頭を、彼は軽く撫でてくる。そして。
「俺にも独占欲はあるから。……主張しておく」
「へっ?」
そのままキスのひとつくらいしそうな勢いだったが当然ながらそんなことはなく。
ぽかん、と離れてしまったアスランの行動と言葉を反芻して。
(うわあ……)
キラは頭を抱えて蹲りたくなった。
だって、今のも絶対に撮られているわけで、自分たちがくっつけばくっつくほどファンの女の子たちは何故か喜ぶわけで、きっとアスランはあの写真が使われないことはないだろうと思っていて、っていうことは、つまりその。
「最高の主張……」
ぼそりと呟くと、だろ? とアスランはまたニヤリと口端を吊り上げた。
「本当は、その見えすぎてるうなじあたりに見える主張をしたいくらいだ」
「……聞こえてないからって言いたい放題だなぁアスラン……」
いや、聞こえているかもしれないけれど。
そうわかっていたって、お互いに冗談のような言い合いを止める気がないのだから意味はない。
「むしろ言葉だけじゃなくやっておくか? とも思ってるけど?」
「そっ、それはだめ!」
最高の主張を通り越して最悪の主張になってしまう!
焦ったキラに今度はアスランがぷっと吹き出して、キラの首に腕を回して引き寄せた。
「わかってる。でも、今日はこのくらいなら許される」
「アスラン、狙ってるんでしょ」
「当然。主張もできてファンにも喜ばれる。一石二鳥だろ?」
「あはは。……っあ、焦げてる!」
「うわっ、やばい、すみません!」
「いやいいよー。新鮮、新鮮。慌ててるところも撮るからねー」
「それはいいんですけど、煙が……」
「ちょっ、アスラン、お皿! お皿とって!」
「はいはい」
などとやっているのを遠目で見ていたスタッフたち全員が、相変わらず仲がいいなぁと二人を生ぬるい目で見ていた。
季節は春。……を通り越して、すでに初夏へと向かっていた。
汗をかいたペットボトル弄びながら、キラはちらりと視線だけ上にあげる。キラのいる木陰より少し先に設置されたパラソルの下に、スタイリストさんと話しながら髪を整えられているアスランの姿がある。
(……なんっか、妙な感じ)
蓋を開けて、ペットボトルのミネラルウォーターを喉に流し込んだ。
初夏とはいえ気温は思ったよりあがっていて水辺が近いせいか湿気もある。日に焼けると困るなあ、と考えて、キラは苦笑した。
日に焼けて困るのはアスランで、キラではない。彼は体質なのか日に焼けると肌が赤くなり大変なことになるのだ。キラは焼いたって紅くも痛くもならず即座に黒くなってしまうのに。
「キラ、お前も直し」
「あー、うん」
アスランが振り返り、キラを呼ぶ。ペットボトルに蓋をして傍にいたスタッフに預けるとキラは立ち上がった。
妙な感じだなぁと思うのは、たぶん彼の髪型のせいなのだろうと思う。間近でそれを見るとますます妙な感覚に襲われて、なんというか、こう、首のあたりがむずむずするような違和感にキラは首を竦めた。
「暑いな」
空を見上げてアスランが呟く。
同じように空を見ることで同意を示して、キラはもう一度アスランの姿をちらりと盗み見た。
今の彼はいつも無造作に下ろしている髪を後ろへ流して、髪の一部分をゆるく縛り軽くクセ毛のようなカールをつけられている。もともと少しクセ毛ではあったけれど、ほぼ真っ直ぐな髪型に慣れてしまっていたから、別人のように見えて仕方ない。
とはいえ、キラも今日はスタイリストさんたちに好きなように弄られていた。襟足を上げられてしまっているので首元が何だか涼しい。
「まぁ僕も大差ないか……」
「何が」
「あ」
思ったことが口に出てしまった。
キラを振り返った彼は怪訝そうにこちらを見ている。
「えーと」
言葉を探して視線を彷徨わせる。直視できない――のは、あれだ。そう、アレ。
認めたくないのだけれど、何と言うか。
「アスランくん、キラくん、始めるよー」
「あ、はい!」
気心の知れたスタッフとカメラマンなので、今日のスチル撮りは和やかだった。
少しばかり季節に外れたキャンプ場は閑散としていてギャラリーもいない。それを何故かよかったなーと思っている自分がいて、キラは笑ってしまう。
「……なんだよさっきから」
アスランがやはり訝しげな視線を投げてきて、キラはますます笑ってしまう。
用意されている炭を入れて、火をおこして網を乗せ。
カシャカシャと鳴り続けるシャッター音を気にしないようにしながら、アスランの顔を覗き込む。
「惚れ直しただけだよ、君に」
「はっ?」
ぽかん、と目を丸くした彼に、キラはぷっと吹き出した。ああやばい、シャッター押されてる。
(もったいないなあ)
本当は。彼のこういう表情とか、いつもと違う仕草とか、ぜんぶキラのものにしてしまいたいのだけれど。
「かっこいいなあ、って。独り占めしたかったなーって」
「…………俺を?」
少しの間をあけて、彼が訊ねてくる。
撮りのことはちゃんと頭に入っているので、二人とも会話をしながらも手と体を動かしつつ。
「うん。でも、こういうときの君はみんなのものなんだよね」
「キラ」
「でもアスランは僕のだーって主張したくなって」
「すればいいのに」
「誰に!」
「うーん、スタッフに?」
「してどうするのさ」
笑いながら作業を進める。スタジオや決まった場所での撮影と違って、こういう流れのある撮影は楽しい。
アスランと会話ができるのも嬉しい。
ただ、こういうときは彼も自分も素の表情をしてしまうことが多くて……それだけが悔しいというか何と言うか。
肉を串に刺しながらアスランを見ると、彼がにやっと笑った。
何となく、人の悪い笑み。
(あー、シャッターきられてる……)
そんな悪人面でいいの、君。などと思いつつ首を傾げると、アスランが近付いてきて。
「っ!?」
こつん、と額が重なった。
「ああああアスランっ!?」
慌てふためきじわじわと赤くなるキラの頭を、彼は軽く撫でてくる。そして。
「俺にも独占欲はあるから。……主張しておく」
「へっ?」
そのままキスのひとつくらいしそうな勢いだったが当然ながらそんなことはなく。
ぽかん、と離れてしまったアスランの行動と言葉を反芻して。
(うわあ……)
キラは頭を抱えて蹲りたくなった。
だって、今のも絶対に撮られているわけで、自分たちがくっつけばくっつくほどファンの女の子たちは何故か喜ぶわけで、きっとアスランはあの写真が使われないことはないだろうと思っていて、っていうことは、つまりその。
「最高の主張……」
ぼそりと呟くと、だろ? とアスランはまたニヤリと口端を吊り上げた。
「本当は、その見えすぎてるうなじあたりに見える主張をしたいくらいだ」
「……聞こえてないからって言いたい放題だなぁアスラン……」
いや、聞こえているかもしれないけれど。
そうわかっていたって、お互いに冗談のような言い合いを止める気がないのだから意味はない。
「むしろ言葉だけじゃなくやっておくか? とも思ってるけど?」
「そっ、それはだめ!」
最高の主張を通り越して最悪の主張になってしまう!
焦ったキラに今度はアスランがぷっと吹き出して、キラの首に腕を回して引き寄せた。
「わかってる。でも、今日はこのくらいなら許される」
「アスラン、狙ってるんでしょ」
「当然。主張もできてファンにも喜ばれる。一石二鳥だろ?」
「あはは。……っあ、焦げてる!」
「うわっ、やばい、すみません!」
「いやいいよー。新鮮、新鮮。慌ててるところも撮るからねー」
「それはいいんですけど、煙が……」
「ちょっ、アスラン、お皿! お皿とって!」
「はいはい」
などとやっているのを遠目で見ていたスタッフたち全員が、相変わらず仲がいいなぁと二人を生ぬるい目で見ていた。
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