2008'10.08.Wed
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おはよう、と口にしようとして、キラはふと口をつぐんだ。
目の前にはいつもと同じ光景――アスランとイザークが何やら話をしている姿――があった。のだが、声をかけるのを躊躇ったのは、その二人の雰囲気がいつもとちょっと違ったからだった。
何が違うって、まず、二人が普通に話している。普通に話すのなんてあたりまえだろと言ってはいけない。この二人は顔が合えば何かしら言い合いをしていて……というか、実際は喧嘩するような内容じゃないのにどうしてか喧嘩口調になっているというだけなのだが、それが当たり前のようになってしまっているのが現状だ。
が、どうしたことかキラの見ている彼らはそれと違う。イザークが伏目がちでアスランを睨んでいないのも珍しい。アスランはアスランで僅かに困ったような表情をしていて、話している内容はここからでは聞き取れないが、深刻なことなのかなと推測できた。
さすがに真剣に話し合わねばならないとき、たとえばブリーフィングや互いの立場を自覚しての会合などでは、二人とも真面目に話しているわけだが、……ここはただの通路だ。エターナル艦内第五連絡通路。住居区から艦橋に行くには必ず通らなければならない場所。
少し近づけば聞こえそうだなと思いつつも近づけない。これ以上近づいたら間違いなく二人に気付かれてしまうだろう。気付いたらおそらく二人は話題を切り替える。なんとなく、そんな気がする。
アスランがプラントにやってきたのは一週間ほど前の話で、カガリがオー部を離れられなくなった為、代理人として――ということだった。ラクスがカガリを呼び寄せた理由をキラは知らない。アスランがもともとそれに含まれていたかもわからない。急に決まったこの召集が何の為かも、実は未だに教えてもらっていない。アスランはラクスと何度か食事を共にしているのでその時に話をしているのだろうが。キラとイザークは二人の護衛という任を仰せつかっていたが中には入らず、扉の外で聞こえもしない話に耳を傾けることとなったわけで。
もしかしたらとうとう白服クラスにも通達がくるのだろうか、だとしたらキラにも関係があるのではないか。って何だか二人の距離が近い。イザークがアスランへの距離を更に詰めて、首元に手をかけ……ああちょうどアスランが移動してしまった為に何をしているかまったく見えない。ぐるぐると色々なことを考えていて、うーん、と唸っているうちに彼らが揃ってぱっと顔を上げた。
(うわっ!?)
見つかった。思いっきり。
「キラ」
「あ、えーと、おはよう……」
「おはよう。さっきから何やってるんだ、気になるだろ」
「うわっ、なに、気付いてたの」
「気付かないわけあるか。あれだけ百面相してて」
「だって何となく声かけにくい雰囲気だったからさー……」
「キラがそんなことを言うの珍しいな」
ぷっとアスランが笑って、じゃあよろしく、とイザークの肩を叩く。そんな仕草も珍しくて、一体今日はどうなっているんだとキラは目を丸くした。そして、先に踵を返したアスランを追おうかどうしようか迷って、イザークをちらりと見ると。怪訝そうな瞳を向けた彼は、その一瞬後に唇の端を吊り上げた。え、何だこの笑み。
「キラ、今日は何の日か知ってるか」
「へ? 今日?」
今日が何日だったかと首を捻ると、イザークが更に唇を吊り上げた。……何だか嫌な予感がする。
「アスランから聞いてないんだな」
「何も」
やっぱり何かアスラン絡み……というよりはラクス絡みか。まだ報告を受けてないんだから仕方ないじゃないか、と言い訳をしようかと顔を上げると、イザークの顔が間近にあった。ぎゃっ、と飛び退く前に、イザークがキラの襟元を摘んで何かを付けた。あ、これってさっきアスランにもやってた仕草。
「なにこれ?」
見れば、襟元に小さなバッジが付けられていた。何だろう、これは。
「ラクス主催の舞踏パーティーの主賓用バッジだ。外すなよ」
「はっ!? 舞踏パーティー!? な、なにそれ、僕そういうの、」
「……俺は今疲れている」
非常にドスのきいた声で、イザークが呟いた。
「ラクスに指示された主賓は十数名、すべて俺が探し出してこれをつけなければならないんだ。わかるな? 俺は忙しい」
「う、」
「踊れないというのなら今からでもアスランに指導してもらえ。どうせ相手はラクスかホーク姉妹だろう。なんとか合わせてくれる」
「うう、」
伏目がちに、……ああ、さっきは気付かなかったけど伏目がちに睨まれている。怨念こもってるよ、と頬をひきつらせた。ああ、これでアスランも困ったような少し引きつった笑みを浮かべていたのか。なるほどー、と理解はしたが納得はできない。踊るなんて、っていうか舞踏パーティーって何で急にそんな。
「気分転換を兼ねた急進派の炙り出しだ。どちらにしても俺たちに踊る暇などほとんどない」
「あ、……そういうこと」
なんとなくほっとした。そうか、ただのパーティーではないのか。
「アスランとラクスが話していたのってそのことだったのかな」
「さあな。そこまでは俺も聞かされていない。だが、関係することではあると思う。ここのところ、ラクスを失脚させようという動きが目立つ」
「うん……そうだね……」
「わかったらさっさと準備をしろよ。パーティーは今夜だ」
「なっ、今夜ー!?」
なんだその急なスケジュールは! キラが目を見開くと、イザークはまた先ほどと同じような何かを企んでいるような笑みを見せた。わざとか! わざとなのか! こんなギリギリに連絡を寄越すのは!
何が目当てだ、と考えてはっと気付く。あれだ。キラが先日単独行動を取って廃棄コロニーのバイオハザード区域に忍び込んだのを怒っているのだ、まだ。確かにあれは報告もなしに飛び出したキラが悪かった……バイオハザードの現在数値も確認しなかったし、ラクスにだって泣かれるほどのことをした、自覚はある、けれど。
「言っておくが何の含みもないぞ。こういう計画だったらしいからな、最初から」
「う」
先手か。本当かと突っ込みたい気持ちを抑え、キラはひきつった笑みを浮かべた。こうなったらやるしかない。
「ラクスがおまえと踊れるのを楽しみにしていたぞ。頑張れよヤマト隊長?」
「……激励痛み入りますジュール隊長……」
おはよう、と口にしようとして、キラはふと口をつぐんだ。
目の前にはいつもと同じ光景――アスランとイザークが何やら話をしている姿――があった。のだが、声をかけるのを躊躇ったのは、その二人の雰囲気がいつもとちょっと違ったからだった。
何が違うって、まず、二人が普通に話している。普通に話すのなんてあたりまえだろと言ってはいけない。この二人は顔が合えば何かしら言い合いをしていて……というか、実際は喧嘩するような内容じゃないのにどうしてか喧嘩口調になっているというだけなのだが、それが当たり前のようになってしまっているのが現状だ。
が、どうしたことかキラの見ている彼らはそれと違う。イザークが伏目がちでアスランを睨んでいないのも珍しい。アスランはアスランで僅かに困ったような表情をしていて、話している内容はここからでは聞き取れないが、深刻なことなのかなと推測できた。
さすがに真剣に話し合わねばならないとき、たとえばブリーフィングや互いの立場を自覚しての会合などでは、二人とも真面目に話しているわけだが、……ここはただの通路だ。エターナル艦内第五連絡通路。住居区から艦橋に行くには必ず通らなければならない場所。
少し近づけば聞こえそうだなと思いつつも近づけない。これ以上近づいたら間違いなく二人に気付かれてしまうだろう。気付いたらおそらく二人は話題を切り替える。なんとなく、そんな気がする。
アスランがプラントにやってきたのは一週間ほど前の話で、カガリがオー部を離れられなくなった為、代理人として――ということだった。ラクスがカガリを呼び寄せた理由をキラは知らない。アスランがもともとそれに含まれていたかもわからない。急に決まったこの召集が何の為かも、実は未だに教えてもらっていない。アスランはラクスと何度か食事を共にしているのでその時に話をしているのだろうが。キラとイザークは二人の護衛という任を仰せつかっていたが中には入らず、扉の外で聞こえもしない話に耳を傾けることとなったわけで。
もしかしたらとうとう白服クラスにも通達がくるのだろうか、だとしたらキラにも関係があるのではないか。って何だか二人の距離が近い。イザークがアスランへの距離を更に詰めて、首元に手をかけ……ああちょうどアスランが移動してしまった為に何をしているかまったく見えない。ぐるぐると色々なことを考えていて、うーん、と唸っているうちに彼らが揃ってぱっと顔を上げた。
(うわっ!?)
見つかった。思いっきり。
「キラ」
「あ、えーと、おはよう……」
「おはよう。さっきから何やってるんだ、気になるだろ」
「うわっ、なに、気付いてたの」
「気付かないわけあるか。あれだけ百面相してて」
「だって何となく声かけにくい雰囲気だったからさー……」
「キラがそんなことを言うの珍しいな」
ぷっとアスランが笑って、じゃあよろしく、とイザークの肩を叩く。そんな仕草も珍しくて、一体今日はどうなっているんだとキラは目を丸くした。そして、先に踵を返したアスランを追おうかどうしようか迷って、イザークをちらりと見ると。怪訝そうな瞳を向けた彼は、その一瞬後に唇の端を吊り上げた。え、何だこの笑み。
「キラ、今日は何の日か知ってるか」
「へ? 今日?」
今日が何日だったかと首を捻ると、イザークが更に唇を吊り上げた。……何だか嫌な予感がする。
「アスランから聞いてないんだな」
「何も」
やっぱり何かアスラン絡み……というよりはラクス絡みか。まだ報告を受けてないんだから仕方ないじゃないか、と言い訳をしようかと顔を上げると、イザークの顔が間近にあった。ぎゃっ、と飛び退く前に、イザークがキラの襟元を摘んで何かを付けた。あ、これってさっきアスランにもやってた仕草。
「なにこれ?」
見れば、襟元に小さなバッジが付けられていた。何だろう、これは。
「ラクス主催の舞踏パーティーの主賓用バッジだ。外すなよ」
「はっ!? 舞踏パーティー!? な、なにそれ、僕そういうの、」
「……俺は今疲れている」
非常にドスのきいた声で、イザークが呟いた。
「ラクスに指示された主賓は十数名、すべて俺が探し出してこれをつけなければならないんだ。わかるな? 俺は忙しい」
「う、」
「踊れないというのなら今からでもアスランに指導してもらえ。どうせ相手はラクスかホーク姉妹だろう。なんとか合わせてくれる」
「うう、」
伏目がちに、……ああ、さっきは気付かなかったけど伏目がちに睨まれている。怨念こもってるよ、と頬をひきつらせた。ああ、これでアスランも困ったような少し引きつった笑みを浮かべていたのか。なるほどー、と理解はしたが納得はできない。踊るなんて、っていうか舞踏パーティーって何で急にそんな。
「気分転換を兼ねた急進派の炙り出しだ。どちらにしても俺たちに踊る暇などほとんどない」
「あ、……そういうこと」
なんとなくほっとした。そうか、ただのパーティーではないのか。
「アスランとラクスが話していたのってそのことだったのかな」
「さあな。そこまでは俺も聞かされていない。だが、関係することではあると思う。ここのところ、ラクスを失脚させようという動きが目立つ」
「うん……そうだね……」
「わかったらさっさと準備をしろよ。パーティーは今夜だ」
「なっ、今夜ー!?」
なんだその急なスケジュールは! キラが目を見開くと、イザークはまた先ほどと同じような何かを企んでいるような笑みを見せた。わざとか! わざとなのか! こんなギリギリに連絡を寄越すのは!
何が目当てだ、と考えてはっと気付く。あれだ。キラが先日単独行動を取って廃棄コロニーのバイオハザード区域に忍び込んだのを怒っているのだ、まだ。確かにあれは報告もなしに飛び出したキラが悪かった……バイオハザードの現在数値も確認しなかったし、ラクスにだって泣かれるほどのことをした、自覚はある、けれど。
「言っておくが何の含みもないぞ。こういう計画だったらしいからな、最初から」
「う」
先手か。本当かと突っ込みたい気持ちを抑え、キラはひきつった笑みを浮かべた。こうなったらやるしかない。
「ラクスがおまえと踊れるのを楽しみにしていたぞ。頑張れよヤマト隊長?」
「……激励痛み入りますジュール隊長……」
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