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咲良の徒然気まま日記。 ゲームやらアニメやら漫画やらの感想考察などをつらつらと。 しばらくは、更新のお知らせなどもここで。

2024'05.19.Sun
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2007'10.13.Sat
忘れないうちにアップ。以下からどうぞ。


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*-*-*-*-*-*

 硬いブーツの底がカツカツカツと通路に音を立てる。大股で、競歩でもしてるんじゃないかというほどの速さで歩いていくキラを、エターナルのクルーたちが何事だと眺めていた。
 キラが目指しているのはブリッジだった。ストライクフリーダムのメンテナンスでドッグにいたのでブリッジが遠い。無重力ならいくらでも早く進む方法があるのに、重力下では走るか歩くかしか移動手段がないのだ。重力なんて、と忌々しく舌打ちをする。すれ違ったクルーがぎょっと目を見開いたが、そんなことすら今のキラには見えていない。
 急いでいるなら走ればいいだろう、とキラを知っている誰かが見たら言うだろうが、そこまでする気分にはなれなかった。走って息を乱して、そこまで急いでやる義理はない。
(……っ、どうしてプライベート回線使わないんだよ!)
 イライラとキラは歩く。休憩室の前を通り過ぎ、ブリッジまであとちょっとというところで、キラに声をかけてきた人物がいた。
「キラ? あに怖い顔してんだよ」
 キラの近寄りがたいオーラが効かない人物その一。シン・アスカ。彼は片手にドリンクボトルを持って口をもぐもぐと動かし、相変わらず襟元をはだけている。
「急いでるから」
「それは見ればわかる。どこ行くんだよ?」
「ブリッジ」
 キラと同じ速度で歩きながら、シンがぽんっと手を叩いた。
「ああ! アスランの定期通信!」
 ガンッ。キラの手がエレベーターのパネルを殴りつけた。
「いい加減にしろって言ったのに、また今回もっ……」
「言った、って……前回? あー、でも、無理だろ。キラが悪いんだと思うけどな、無茶なことばっかりしてるから」
「どこが!」
「どこがって、全部」
「…………」
 シンを睨みつけて、到着したエレベーターに乗る。どうやらシンはキラにくっついてくることに決めたらしい。
「単独で捜査に出ることもそうだし、ブルーコスモスの残党を追い詰めたときなんか生身で飛び出してたし、ジュール隊に前線指揮押し付けて俺まで置いて廃棄コロニーに飛び込んだりしたし?」
「っそれは」
「俺はいちいち報告なんかしないけどさ、キラの行動はどうしてもオーブには伝わるよ。仕方ない」
「わかってる。それはいい、いいんだけど」
「……あ、キラ」
 小さな音がして、ブリッジに到着する。シンが目を合わせてきて、何かと思ったらぎゅうっと抱きつかれた。
「?」
 一体なんだ。
 キラが怪訝そうに眉をひそめると、開いた扉の向こうから、絶対零度の声が飛んできた。
『元気そうだな、シン・アスカ。お前は一体いつからキラの護衛をやめたんだ?』
 首だけ回して声がした方向を見遣る。ブリッジのモニター一杯に声の主が映っていた。透き通った緑の目、紺色に近い黒髪、落ち着いた表情。いつもと変わらない――ように見える――彼がいた。
「やあ、アスラン。お待たせ」
 シンが何も答えないので、キラは仕方なくそんな声を投げた。やんわりとシンの腕を外し、ブリッジの中央に歩み寄る。改良された通信機器は本当に優秀すぎて困る。そんな遠くまで映さなくても、相手と話す者だけを映してくれればいいのに。
(それを見越して悪戯するシンもシンだけど)
 キラに従うふりをして少し後ろに控えたシンをちらりと見る。彼はにやりと人の悪い笑みを浮かべるだけだ。ああ、どこで育て方を間違ったんだろう。オーブで共に暮らしていたときの彼はあんなに可愛かったのに。
 密かなため息を聞きとがめ、アスランがキラを呼ぶ。
「ああ、うん、ごめん。わかってるよ、ちゃんとお説教は聞きます」
『説教とか言うな。俺はただお前を心配してるんだ』
「わかってる。……でも、君が心配するほど危ないことはしてないつもりなんだけど」
『俺のところに来ているストライクフリーダムの功績があまりにも素晴らしくて涙が出た。突破口を開くのが得意だそうだな?』
「何それ。誰がそんなこと」
『先日のマティウス抗争では銃を持って前線に立ったそうじゃないか。今度はセーフティ外すの忘れなかったんだな』
「う……、何だよそれ嫌味?」
『事実だ。お前がオーブから出てプラントに行ったのは、抗争を止めるためじゃないだろう。前線に立って指揮を取るためでもないだろう。違うか?』
「………………わかってる、よ」
 キラの答えに、アスランははあっと大きなため息をついてみせた。クルーたちは慣れたもので、こんな二人のやりとりにも動じず自分の仕事を全うしている。キラに悟られずに密かに笑う者はもちろん多かったが。
 シンもさすがに慣れているので、キラの後ろで呆れた顔をしただけだった。
「アスラン。そういうことだけなら、プライベート回線使えって何度も」
『ああ、違う。今回はひとつ連絡があって』
 キラの不満を一蹴し、アスランがニヤリと口端を吊り上げた。
「連絡?」
『そう。先日の要請が通ったんだ。プラントの一基をオーブとの共同開発に使用することになった』
「え、本当に?」
『だいぶ老中は渋ってたけどな。カガリが頑張った。それにラクスからの説得も入ったし。これで、ナチュラルとコーディネイターの架け橋ができればいいんだが……』
 よかった、と呟いて笑顔になる。よく見れば、アスランの顔は少し疲れが表れていた。きっと彼もオーブで忙しく動いているのだろう。キラのように名ばかりの准将ではなく、彼は今、名実共にカガリの右腕として働いているのだから。
『で、もうひとつ吉報』
「ん、なに?」
 アスランの笑みに、シンが後ろで、あ、と呟いた。
「俺、キラに言うの忘れてた……」
「へ?」
 キラが首をかしげ、アスランに向き直ると。
『一週間後、視察も兼ねてそっちに行くことになった。……覚悟してろよ』
「なっ……」
 覚悟って何を!?
 キラがぎょっと目を見開くと、さすがに堪え切れなかったのか計器を弄っていたクルーの数人が噴出した。シンは後ろで肩を竦めている。
 通信は、それから当たり障りのない挨拶で締めくくられて切られてしまったのだけれど。キラが釈然としないまま突っ立っていると、シンが肩を叩いてきた。
「ごめん、俺、ジュール隊長に言われたこと忘れてた」
「え? イザーク?」
「うん。ラクスさんが――……あ、クライン議長が。ディセンベルで何かしようとしてるって」
 わざわざ言い直したシンに、別にいいのにと苦笑する。クルーの手前、ただの赤服である自分が名前呼びでは、とでも思ったのだろう。まぁ、公私混同は良くないと、そういう躾をしたのは自分だ。これは褒めてやるべきなのだろう。
(あぁ、でも)
 だったらこのキラに対する口調も改めさせなければならないのだが。キラは一応、シンの上司だ。
「ラクスが?」
 だがあえてそれは言及せず、クルーに軽く挨拶をするとキラは再びエレベーターに足を向けた。後をついてきたシンに視線で先を促す。
「俺にも何だかまではわからないけど……なんか、夏だからって張り切ってたとかって」
「ラクスが、張り切って……」
 何か嫌な予感がする、とキラがこぼすと、シンが俺もと同意してくれた。


 キラがプラントに来て、白服になって、気付けばもうすぐ一年になる。足場を築き、ラクスの護衛から外してもらえるようになって、やっと宇宙へ出ることが許されてから、まだ三カ月ほどしか経っていない。しばらくはイザークやディアッカと、本来ならアカデミーでやるべきカリキュラムを単独で準え実力も上げていった。
 今まではただMSの操縦だけできればよかった。生身で敵と対峙することはほとんどなかったし、もしあったとしても持ち前の反射神経でどうにかできた。けれど、それだけではこのザフト軍では生き残れない。敵は外ではなく内にいる。
 突然現れた得体の知れない上官を快く思わない人間は多い。それは当然のことで、ザフトにきた当初は相当荒れた。キラ自身も何度もつっかかられて、そのたびにぐらぐら意識を揺らしながら、それでも耐えてきた。
 それは遠くにいてもああしてキラを心配してくれるアスランやカガリのおかげでもあったし、今みたいにキラの傍にいてくれるシンのおかげでもあった。そしてもちろん、プラントでキラを助けてくれるラクスやイザーク、ディアッカの支えがあったからこそ。
(夏、か……)
 そういえば、シンと、カガリと、……アスランと。オーブの海岸で、皆でした花火からもう一年なのだ。ラクスが決断をしてプラントに行き、アスランが要請を受けプラントへ上がる直前。ちょうどあの頃から、キラの世界は変わり始めた。
 緩やかだった時は急激に早く流れるようになり、立ち止まることも振り返ることも許されなかった。
 否、振り返るつもりもなかった、のだが。
(この一年で、何ができただろう)
 不意にそんな思いが過ぎって、キラは眉をくもらせた。
「キラ?」
「あ」
 呼ばれて、顔を上げる。そこには風に髪を弄られながらこちらに歩いてくる銀糸の彼がいた。
「珍しいね、こんな時間にこんなところで。どうしたの?」
「ああ……ちょっと、来週の打ち合わせで、な」
 珍しく歯切れ悪くイザークはそう言い、キラの横の手摺にもたれかかる。
 外の風は気持ちが良かった。オーブでの湿った風と違って、プラントの風はちょうどいい湿度で不快感がない。調節されているのだから当たり前だけれど。
「来週ねぇ。一体何をたくらんでるの、ラクスは」
「俺が担当してるのは打ち上げ花火」
「花火!? うわ……ってプラントの花火って高さ気をつけないとだから大変そうだなぁ」
 キラが笑うと、イザークは大変なんだとため息をついた。ああ、この人も疲れている。キラはそう思って目を細めた。
 何事もなく日々が過ぎていくけれど、何事もなさ過ぎて疲労が溜まる。
 足掻いても足掻いても何も変わらない気がして、焦燥だけが募っていく。
 それは自分でも知らないうちに大きな重石となって肩に乗り、そのうち背中にも乗り、そしてだんだん立っていられなくなるほどの重圧になる。
 疲労が出るのはそのせいだ。彼もいつになっても落ち着かない今の状勢に嫌気が差しているのかもしれない。
「そういえば、イザーク」
「なんだ」
 風が、少し強くなる。キラの前髪がすべて後ろへ流れた。隣のイザークの髪もゆるやかな弧を描いて跳ねている。
「イザークの誕生日って、もうすぐじゃなかった?」
 キラがそう言うと、イザークは物凄く意外そうな顔をした。というか、脈絡もなく続けられた言葉に面食らっているというか。
「あれ、違った?」
「いや……違わない、が」
「あ、だよね。パーソナルデータ見たときに八月だった気がしたんだ。いつだったっけ? もうすぐっていうか、今日とか言っても間違いじゃないくらい近かったような」
「…………」
 イザークの瞳が、キラを見てからすっと細くなる。
 なんだろうと見返すと、彼はどこか呆れたように呟いた。
「勘がいいんだか記憶力がいいんだかな」
 そう前置きをして、ひとつ息をついて。
「……明日だ」
「え」
「あぁ、もう日付が変わったから、今日、か」
「ええっ!」
 キラは目を丸くして、自分のタイミングのよさに驚いた。
「でも別に、今更誕生日なんて――」
 苦笑し、そう言いかけたイザークの言葉を遮る。
「おめでとうっ!」
「…………」
 彼はただ、キラを見返した。少し眉間に皺が寄っているから、人の話を聞けとでも思っているのかもしれない。
「新しい命が誕生するって、凄く、大切で、大事で、素晴らしいことだと思うから」
 だから、誕生日おめでとう。
 キラが繰り返すと、イザークが困ったように微笑った。穏やかな笑み。
「……戦場じゃなくて、よかったな」
 微妙なニュアンスのそれに、キラは少し俯いた。
「うん。……生きててよかった」
 何度も刃を交えて、本気で殺そうとして、それでも今はこうして肩を並べている。アスランもイザークもディアッカもシンも。
(ああ、そうか)
 きっと、それだけで、現状には意味がある。
 毎日毎日争いはなくならないし、疲労は消えないけれど。それでも確かに、得られたものがここにある。
「花火かあ……楽しみにしてる」
 キラがそう呟くと、イザークは小さく相槌を打って。
「オーブからの視察に合わせるそうだから、奴もいる。息抜きしてこい、お前も」
「あー……やっぱり、目的はそっち、かな?」
「だろうな。ラクス嬢は奴の心理状態をよく把握してる」
「僕じゃなくて?」
「あいつだ。最近の奴の行動は目に余る。そろそろこっちもキレそうだったからちょうどいい」
「……イザークも、僕の行動は無茶だと思う?」
 キラが問うと、イザークは少し考える素振りを見せた。
「いや。俺は奴と違うからな。キラが功績を上げればそれだけ足場が固定する。威厳も上がる。まあ、でも、ラクスの精神安定には、キラの行動は良くないか」
 ラクスもか。キラはがっくりと肩を落とした。
「なんでそこまで心配するかな。そんなに僕危なっかしい?」
「キラの危うさは、表面じゃなくてここだろう」
 イザークの拳が、こつんとキラの左胸に当たる。
 しばし、悩んで。
「……みんな、優しいな」
 ぽつりとそう呟くと。
 イザークはただ小さく笑った。
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