2008'06.03.Tue
*-*-*-*-*
翌日から、ルルーシュは必要以上にスザクを意識するようになった。第二関門として設定した『意識』とはまた違う――今のルルーシュのアレはスザクにどう接していいか悩んでいるような感じだ――が、そうやって悩んでいるあたりルルーシュがスザクのことをこのまま突き放す気がないのだと思えて、少し嬉しくなったりする。
スザクと何かあったのだと悟られたくないのだろう、彼は徹して今まで通りにいようとしていた。教室の中でも、生徒会室の中でも、リヴァルやシャーリーたちと中庭でランチをしていたときにも。
けれどスザクとふたりきりになると、急に口数か減り神経が尖るのがわかる。全身が神経みたいになって、スザクがちょっと触るだけでぴくりと小さく反応する。警戒されているのかなと最初のうちは落ち込んだのだが、彼のポーカーフェイスが崩れるのはそうしてスザクが触れたときだけなのだと気付いて、しかもその崩れたあとに見せる表情が行動に対する怯えや不快感などの負の感情ではなく、自分の反応にすら驚いているようにも見える戸惑いばかりがあらわれたものだったので少し安堵した。少しだけ耳や頬が赤くなっていることにも気付いてしまった。
きゅっと唇を引き結んで、スザク、と確かめるように自分を呼ぶ彼は、まるでスザクの意思を確認するかのように真っ直ぐな視線を向けてくる。だからスザクも、なに、と答え返しながら彼のきれいな紫水晶を微笑んで見返す。想いに気付いてしまってからは今までのように友達への視線を向けることが出来なくて、目が合えばどうしても愛しさを前面に押し出した視線になる。
それがたぶんルルーシュには居心地が悪いのだろう。自分から呼んでおいてスザクのその視線に合ったら目を逸らすのはよくあることで、でも何度もそうしてスザクを見極めようとしてくる彼に、自分はますます惹かれて行くのだ。
そんなやりとりが日常的になってしまって、気付けばひと月近く経とうとしていた。相変わらずルルーシュはスザクとの微妙な距離感を悟らせないようにしていて、生徒会の皆も、あんなに近くにいるナナリーでさえも、ふたりの変化に気付かずにいた。
それもそのはず、ルルーシュとスザクの日常にそれほど大きな変化はなかったのだ。同じ教室で授業を受けて、昼はリヴァルや生徒会の面々、たまにはナナリーとも食べて。放課後は生徒会、もしくはリヴァルとの付き合い、ふたりきりで図書館などに行き勉強をしていたりすることもある。一緒にいる時間は増えもせず減りもせず、まあ今までが今までなだけに増やしようもなかったのだが、気まずくなって減らされてしまうということもなく。実はちょっと危惧していたことだったので実に喜ばしいことなのだが、けれど変化のない付き合い方にスザクはそろそろ諦めの姿勢に入っていた。
「ルルーシュ」
「ん?」
明日提出の課題があるのだと、ルルーシュに泣きついたのが生徒会室での出来事。そこで作業を始めたらリヴァルやミレイが邪魔をしてくるので、仕方なしに図書室に場所を移動して、スザクが行き詰ったらルルーシュが教え、訊かれるまでの間彼は手に取った本を読んでいる……それはいつもと同じ風景だった。
図書室の奥に設置されている、学生のための勉学スペース。ここは周りのことを気にしなくて済むように席と席の間についたてがあり、扉こそついていないがそこそこのプライベートが守られるため人気が高い。あいているかどうかは運次第だが、必ずどこかの部活動に入るのがアッシュフォードの規律でもあるため、授業が終わってすぐの時間帯は比較的すいている。ルルーシュは周りの視線や喧騒に敏感で、図書室で本を読むときには必ずここを使用していると言っていた。借りて帰ればいいのに、という問いは愚問だろう。
「詰まったのか」
「うん。ここ、問8なんだけど」
「あぁ、これは……」
少しだけ身を乗り出してスザクにわかりやすいように解説をしてくれる。こうして距離が近付くたびにいつも思う。睫が長いな、とか、本当に顔立ちが整ってるよな、とか。さらりと流れるやわらかく艶のある黒髪に触れることは、最近ルルーシュも許容してくれて何も言わなくなったしびくりと反応することもなくなった。慣れ、とも言うのかもしれない。
解説しながら用紙に書き込んでいく手は白く指は細い。この手に触れることも少し前から許してくれるようになったけれど、先日出来心でその指先に口付けたら彼はピシリと固まってしまって、思わず「あ、ごめん」とスザクは謝ってぱっと手を離していた。手が離れたことで動きを再開させたルルーシュは何だかぎこちなく、頭が回っているのかいないのか言動に一貫性もなくなって、これは相当無理しているなと思って……いたのだ。
説明をしおわって、わかったか、と訊いてくるルルーシュにありがとうと微笑み返す。事実ルルーシュの説明は誰に教えてもらうのよりもわかりやすくて助かっている。明日の課題はこれでクリア。助かったよともう一度笑いかける。
そろそろ潮時かなあと、ここ数日、スザクは考えていた。ルルーシュに無理をさせたいわけではないし、どうしても無理矢理にでも何をしても自分の思いを認めて受け入れて欲しいなんて、そんな、それこそ一方的なことを強いるつもりはないのだ。
だから最後にもう一度。そう思って、スザクは何度目になるかわからない仕草でルルーシュとの距離を詰め、机についていた手を押さえるようにして重ねる。
ルルーシュがはっとして顔を上げた。無防備なその唇に視線を定めて、顔を傾け――。
「―――……、」
かけて、スザクはふっと力を抜いた。
唇は重なっていない。
微かに身を引き、でも動けないと悟ったのか、ルルーシュはぎゅっと目を瞑って唇を強く引き結んでいた。
怯えられているのかもしれない。意思がなくても、無理矢理でも、スザクが奪うと考えているのかも知れない。
それは嫌だな、と思った。だから。
「ルルーシュ、帰ろうか。ナナリーが待ってる」
「え……?」
手を解放して、課題を鞄にしまう。
「スザク、」
「今日は咲世子さんが日本食作ってくれるって言ってたんだ。楽しみだな」
突然の雰囲気の変化についていけないのか、ルルーシュがスザクを見つめてくる。唇が動き、何かを紡ごうとして、閉ざされる。
微笑んで、腕を差し出す。手とスザクの顔を交互に見ていたルルーシュが躊躇いがちにその手を取った。
「うわっ」
ぐいっと引いて椅子から立ち上がらせ、ぱっと簡単に繋ぎ目をほどく。
その時を境に、スザクはルルーシュにキスを仕掛けるのをやめた。
翌日から、ルルーシュは必要以上にスザクを意識するようになった。第二関門として設定した『意識』とはまた違う――今のルルーシュのアレはスザクにどう接していいか悩んでいるような感じだ――が、そうやって悩んでいるあたりルルーシュがスザクのことをこのまま突き放す気がないのだと思えて、少し嬉しくなったりする。
スザクと何かあったのだと悟られたくないのだろう、彼は徹して今まで通りにいようとしていた。教室の中でも、生徒会室の中でも、リヴァルやシャーリーたちと中庭でランチをしていたときにも。
けれどスザクとふたりきりになると、急に口数か減り神経が尖るのがわかる。全身が神経みたいになって、スザクがちょっと触るだけでぴくりと小さく反応する。警戒されているのかなと最初のうちは落ち込んだのだが、彼のポーカーフェイスが崩れるのはそうしてスザクが触れたときだけなのだと気付いて、しかもその崩れたあとに見せる表情が行動に対する怯えや不快感などの負の感情ではなく、自分の反応にすら驚いているようにも見える戸惑いばかりがあらわれたものだったので少し安堵した。少しだけ耳や頬が赤くなっていることにも気付いてしまった。
きゅっと唇を引き結んで、スザク、と確かめるように自分を呼ぶ彼は、まるでスザクの意思を確認するかのように真っ直ぐな視線を向けてくる。だからスザクも、なに、と答え返しながら彼のきれいな紫水晶を微笑んで見返す。想いに気付いてしまってからは今までのように友達への視線を向けることが出来なくて、目が合えばどうしても愛しさを前面に押し出した視線になる。
それがたぶんルルーシュには居心地が悪いのだろう。自分から呼んでおいてスザクのその視線に合ったら目を逸らすのはよくあることで、でも何度もそうしてスザクを見極めようとしてくる彼に、自分はますます惹かれて行くのだ。
そんなやりとりが日常的になってしまって、気付けばひと月近く経とうとしていた。相変わらずルルーシュはスザクとの微妙な距離感を悟らせないようにしていて、生徒会の皆も、あんなに近くにいるナナリーでさえも、ふたりの変化に気付かずにいた。
それもそのはず、ルルーシュとスザクの日常にそれほど大きな変化はなかったのだ。同じ教室で授業を受けて、昼はリヴァルや生徒会の面々、たまにはナナリーとも食べて。放課後は生徒会、もしくはリヴァルとの付き合い、ふたりきりで図書館などに行き勉強をしていたりすることもある。一緒にいる時間は増えもせず減りもせず、まあ今までが今までなだけに増やしようもなかったのだが、気まずくなって減らされてしまうということもなく。実はちょっと危惧していたことだったので実に喜ばしいことなのだが、けれど変化のない付き合い方にスザクはそろそろ諦めの姿勢に入っていた。
「ルルーシュ」
「ん?」
明日提出の課題があるのだと、ルルーシュに泣きついたのが生徒会室での出来事。そこで作業を始めたらリヴァルやミレイが邪魔をしてくるので、仕方なしに図書室に場所を移動して、スザクが行き詰ったらルルーシュが教え、訊かれるまでの間彼は手に取った本を読んでいる……それはいつもと同じ風景だった。
図書室の奥に設置されている、学生のための勉学スペース。ここは周りのことを気にしなくて済むように席と席の間についたてがあり、扉こそついていないがそこそこのプライベートが守られるため人気が高い。あいているかどうかは運次第だが、必ずどこかの部活動に入るのがアッシュフォードの規律でもあるため、授業が終わってすぐの時間帯は比較的すいている。ルルーシュは周りの視線や喧騒に敏感で、図書室で本を読むときには必ずここを使用していると言っていた。借りて帰ればいいのに、という問いは愚問だろう。
「詰まったのか」
「うん。ここ、問8なんだけど」
「あぁ、これは……」
少しだけ身を乗り出してスザクにわかりやすいように解説をしてくれる。こうして距離が近付くたびにいつも思う。睫が長いな、とか、本当に顔立ちが整ってるよな、とか。さらりと流れるやわらかく艶のある黒髪に触れることは、最近ルルーシュも許容してくれて何も言わなくなったしびくりと反応することもなくなった。慣れ、とも言うのかもしれない。
解説しながら用紙に書き込んでいく手は白く指は細い。この手に触れることも少し前から許してくれるようになったけれど、先日出来心でその指先に口付けたら彼はピシリと固まってしまって、思わず「あ、ごめん」とスザクは謝ってぱっと手を離していた。手が離れたことで動きを再開させたルルーシュは何だかぎこちなく、頭が回っているのかいないのか言動に一貫性もなくなって、これは相当無理しているなと思って……いたのだ。
説明をしおわって、わかったか、と訊いてくるルルーシュにありがとうと微笑み返す。事実ルルーシュの説明は誰に教えてもらうのよりもわかりやすくて助かっている。明日の課題はこれでクリア。助かったよともう一度笑いかける。
そろそろ潮時かなあと、ここ数日、スザクは考えていた。ルルーシュに無理をさせたいわけではないし、どうしても無理矢理にでも何をしても自分の思いを認めて受け入れて欲しいなんて、そんな、それこそ一方的なことを強いるつもりはないのだ。
だから最後にもう一度。そう思って、スザクは何度目になるかわからない仕草でルルーシュとの距離を詰め、机についていた手を押さえるようにして重ねる。
ルルーシュがはっとして顔を上げた。無防備なその唇に視線を定めて、顔を傾け――。
「―――……、」
かけて、スザクはふっと力を抜いた。
唇は重なっていない。
微かに身を引き、でも動けないと悟ったのか、ルルーシュはぎゅっと目を瞑って唇を強く引き結んでいた。
怯えられているのかもしれない。意思がなくても、無理矢理でも、スザクが奪うと考えているのかも知れない。
それは嫌だな、と思った。だから。
「ルルーシュ、帰ろうか。ナナリーが待ってる」
「え……?」
手を解放して、課題を鞄にしまう。
「スザク、」
「今日は咲世子さんが日本食作ってくれるって言ってたんだ。楽しみだな」
突然の雰囲気の変化についていけないのか、ルルーシュがスザクを見つめてくる。唇が動き、何かを紡ごうとして、閉ざされる。
微笑んで、腕を差し出す。手とスザクの顔を交互に見ていたルルーシュが躊躇いがちにその手を取った。
「うわっ」
ぐいっと引いて椅子から立ち上がらせ、ぱっと簡単に繋ぎ目をほどく。
その時を境に、スザクはルルーシュにキスを仕掛けるのをやめた。
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