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咲良の徒然気まま日記。 ゲームやらアニメやら漫画やらの感想考察などをつらつらと。 しばらくは、更新のお知らせなどもここで。

2024'11.19.Tue
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2008'06.11.Wed
押せ押せスザク(…)の続きです。次で一段落にしたい所存。

※先日アップしたものと今日書いた続きを合体させました。すみません。終わらなかったんです…。
つ、次で絶対に一段落させる…!(そしてサイトに移してから更に続きを書くんだ!)

相変わらず一発書きなので誤字脱字あるかもしれません;気付いたら教えてくださると嬉しいです;;

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*-*-*-*-*


 やめたからといって、何が変わるわけでもない。スザクが告白してからだって互いの距離は変わらなかったのだ、変わったのはお互いへの意識だけで目に見えるものは何一つ変化がない。
 あの日以来仕掛けていたキスはスザクが勝手に「一日一回」と決めていたのだが、ルルーシュがそれに気付いているかどうかはわからなかった。言葉にして指摘されたこともなかったし、ただ単にルルーシュの隙が一日に一回くらいしかないのだろうとかそんな風に思っている可能性もある。
 実際にはルルーシュの隙なんて両手で数えても余るほどあるのだが、当の本人がそれに気付いていないとなれば大問題である。スザクだからそれを見て見ないふりをしているのであって、もしこれが他の誰かだったら……。
 そこまで考えて、いやいや、とスザクは首を振った。
(それはない、か)
 そのくらいは自惚れてもいいかなあとスザクは透き通ったペットボトルを頭上に掲げる。ルルーシュが隙を見せるのはスザクに気を許しているからであって、これが他の生徒なら……たとえ悪友とルルーシュ自身が認めているリヴァルにだって、あんな無防備な態度を取ったりしない。それは間違いない。
 ルルーシュが部屋に招き入れてくれるのは現在スザクだけだし――当然ながら実妹であるナナリーやメイドの咲世子などは別だ――夕食を共にするのだって、時間が遅かったら泊めてくれるのだって、弁当を作って手渡してくれるのだって、すべてスザクにだけなのだ。
 まあ、しかし。どうして、と聞かれれば彼はこう答えるだろう。
 スザクは幼馴染だし、気心が知れてる。それにナナリーがスザクを気に入ってるんだ――。
 何となく想像できてスザクは苦笑した。ペットボトルの中に入った水がたぷんと揺れて、青い空がぐにゃりと歪む。
 ナナリーが喜ぶから、という理由を彼は良く使う。それはただの理由ではなくて事実であって、スザクが一緒にいるとナナリーは嬉しそうにしてくれる。七年前に戻ったみたいですね、と花が咲くような可愛らしい笑みを浮かべて。そんな妹を見て、ルルーシュも微笑む。学校や、生徒会室や、租界を歩いているときの彼とは違う、自然な……柔らかい表情で。
(笑った顔が好きだな)
 そう思ったのはたぶん自覚する前だ。彼がそうやって微笑むのが好きで、どうにかして笑わせたくて。
 その笑顔が自分に向けられているのが嬉しかった。もっともっと、と貪欲になった。
 けれど。
(逆効果、だったよねー)
 本当に失敗した、と思う。
 告白してから、ルルーシュは笑わなくなった。正確には、笑わなくなったのではなくて、微笑がぎこちなくなった。
 スザクに向けられる笑みはいつも戸惑いを含むようになっていて、こちらを見る視線にも困惑や戸惑いが多く含まれるようになった。
(そんな顔をしてほしかったわけじゃないんだ)
 だから、もうやめようと……以前と同じ二人に戻ろうと頑張ってきたけれど、一度心に刻み付けたものは消えないらしい。……当然だが。
 キスを仕掛けなくなって、今までのような接触もやめて、視線もできるだけ他の友達と同じ色のものを向けて。意識しないように、ルルーシュが少しずつ自分に対する態度を戻してくれるようにと願っていたのだけれど、彼の様子は更にひと月経った今でも告白直後と変わりない。
 ごろり。ペットボトルを横に転がして、自分もその場に転がってしまう。ここにルルーシュがいたならば、きっと呆れ顔でスザクを怒っただろう。屋上で寝転ぶな制服が汚れる。そんな風に言って。
 目を閉じれば、部活をしている生徒の声が遠くから聞こえてくる。今日は生徒会は自由参加で、シャーリーは水泳部、ニーナは科学部、ミレイは理事長のところへ行っていた。……リヴァルはルルーシュとバイクで外へ出かけて行った。おそらくまた賭けチェスでもする気なのだろう。
 どうしたらいいのかな、と小さく呟いて、スザクは腕を持ち上げると目元に乗せた。光が奪われ捉えられるのは暗闇ばかりになる。
(言いたくないなぁ……)
 ひとつだけ、策がある。
 きっと、それさえスザクが告げれば、ルルーシュは少しずつ前のように戻るのではないか。
(自分に嘘をつくの、得意じゃないんだ)
 ルルーシュを好きだと、欲しいと思う気持ちを押し殺して、そして彼に告げればいいのだ。
 振り回してごめん、と。心も身体もなんて言っちゃったけど僕は友達のままでもいいんだ、と。君のことを好きなのは変わらないけど、今の関係で充分だと思ってる――。
 だから改めてよろしく、僕の親友。
(笑顔で、彼に内心を悟られずに、言えればいいんだ)
 目を閉じたまま、何度も何度も、頭の中でシミュレートする。脳裏に浮かぶのは、怪訝そうにこちらを見る彼の紫色の瞳。どうやったら彼に疑われず怪しまれず告げた言葉を信じ込ませることができるだろう。
(……告白より難関)
 はあ、とついたため息は、変わらず続く青い空に消えた。


 嫌だなと思っているときほど、チャンスは巡って来るものなのだ。世の中の不条理にスザクは大仰に溜息をつきたい気分だった。
「ルルーシュ」
 見つけてしまった細い人影を無視することはできなくて、スザクは声をかけた。リヴァルはちょうど走り去って行ってしまったあとで、挨拶することも出来なかった。寮に帰らずどこに行くのだろう。これからまだバイトがあるのだろうか。
「随分のんびりだな。生徒会、今日はなかったんだろう?」
「ああ、うん。そうなんだけどね」
 曖昧に笑い、もっともらしく明日の小テストの勉強を、と言ってみる。ルルーシュはふうんと軽く相槌を打ち、スザクの目をじっと見つめてきた。
(あ、)
 時折見せる、あの瞳だ。スザクの心を見透かそうとしているような、内側にある真実を見極めようとするような、真っ直ぐな視線。
 困ったなと思いつつ苦笑する。いつもならさっと視線を逸らす彼が、どうしたことか今日はスザクが見つめ返してもそのままこちらを見据えていた。
「……ルルーシュ?」
「理解できたのか」
「へ?」
 そこでやっと、視線が逸れる。
「勉強。明日の範囲、広かっただろう」
「あ、あぁ、うん、一通りは復習してみた、んだけど、あんまり……」
 嘘ですとは今更言えない。小テストは運動は得意でも勉学にそれほど魅力を感じないスザクにとって鬼門にも近かったが、今日はそれどころじゃなくて復習なんてまったくできていない。たらりと背中に嫌な汗が伝う。
 人に嘘をつくときというのは、これほど嫌な感覚を得るものだっただろうか。いやいや相手がこのルルーシュだからだ。スザクはどんよりと落ち込みかけた。
「もし――……」
 言いかけて、ルルーシュがまた顔を上げる。再び重なった視線にスザクは軽く息を止めた。
 夕日に照らされて、ルルーシュの顔がオレンジ色に染まっている。艶やかな黒髪もオレンジ色を帯びて光り、そのやわらかな感触を確かめたくて、手を伸ばしたくて、それでもぐっとスザクは衝動を抑えつけた。
 決めたのだ。もうこれからは、ルルーシュをそういう目で見ないと。友人として接して、友人として見る。だから今も、愛しげな視線なんてしてはいけない。友達にそれはあり得ない。
 そうっと息を吐き出して、スザクは少しだけ首をかしげてみせた。なるべく関心がなさそうに見えるよう、視線を僅かにルルーシュの顔から外す。顔を見るからいけないのだ、顔さえ見なければ衝動は抑えつけられる。
 だがそれ故に、スザクは気づけなかった。ルルーシュがスザクのその行動に、唇を噛み締めたことに。
「いや、もしじゃないな。命令だ。スザク、今日はこのままうちに寄って行け」
「……は?」
 命令? ぽかんとスザクが口を開けて視線を上げると、ルルーシュはくるりと踵を返した。素早い。
「え、ちょっと、ルルーシュ」
「今日は咲世子さんが居ないから俺が夕食を作る。仕込みは済んでるが、お前一人くらい増えても大丈夫だ」
「いや、でも」
「この時間までいるってことは、今日は暇なんだろう。いいから来い。……ナナリーも喜ぶ」
「あ、……」
 ナナリーが。
 相変わらずの返答に、スザクはくしゃっと顔を歪めた。ルルーシュが背を向けているからこその顔だ。こんな表情、絶対に見せられない。
(ずるいなあ……)
 スザクがその言葉に弱くて、その言葉にどれだけ傷ついているか、ルルーシュは知っているだろうか。
 知るわけがない。知るわけがない、のだし、それはスザクが勝手に思っていることなのだから彼を責めるのは間違っている。けれど、もう一言。もう一言、あったって。
「スザク」
「ん……何」
 クラブハウスへ歩いていくルルーシュは振り返らない。
「夕食終わったら、勉強見てやるから。……でも、……どうしても、無理なら、別に」
 命令だ、と言ったくせに、弱気な言葉。ああもう、とスザクは右手に持った鞄をぎゅっと握り締めた。
 そういうのは反則じゃないだろうか。命令だなんて俺様女王様な発言をしておいて、急にそんな自信のなさそうな声を出して。狙ってやってるんじゃないのはわかっているからタチが悪いのだ、彼の性格上こんなことを狙ってやったらそれは天変地異の前触れとも言っていい。それくらいのプライドの高さをスザクは知っている、知っているけれども……もしそのプライドを削ってでもスザクを必要としてくれていたらどうしよう。
 たとえ、彼が自分に向けるそれがスザクと同じ色を持つ感情じゃなくても。友人としてでもいい、手放したくないと、そう、願っていてくれたとしたら――。
「ううん、行くよ。嬉しい。ありがとう、ルルーシュ」
 微笑んで返した言葉にルルーシュが振り返る。スザクの表情をしばらく見つめて、少しだけ肩を竦め口端を吊り上げた彼は。
 心なしか安堵しているように見えた。




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