2008'02.27.Wed
*-*-*-*-*
「今日は特別な日になるよ」
何の前触れもなく、スザクが言った。そんなことわからないと呆れたように返したら、そうかなと目を細めてルルーシュを見つめ、彼は微笑った。
そんな朝のやりとりから、かれこれ数時間。外はすでに真っ暗になっており、体力自慢のスザクが数日前からせっせと設置したイルミネーションが、パーティー会場を囲むようにしてきらきらと輝いている。
「……どこがだ」
ルルーシュはげんなりと重い呟きを落とした。
やっと抜け出してきたパーティー会場は人の渦だった。クリスマスだから盛大に! とミレイが企画したダンスパーティーは、自由参加だったにも関わらず参加者が多く、クラブハウスでは収まりきれないと判断したルルーシュが寮から少し離れた位置にある多目的ホールに移動させた。
全校生徒が悠々とおさまるはずのホールも、中央にダンスフロアが設けられており、天井に届くのではないかと思うほど大きなツリーが飾られているため、それほど広く感じられない。
パーティーはまだ始まったばかり。だが、生徒会役員は裏方の仕事が大いにある。
パーティーの進行はお祭り好きのミレイに任せておけばいいとしても、照明の操作や料理飲み物の給仕など、やることはいくらでもある。せっかくのパーティに女性が裏方じゃ可哀相だろうとスザクが言うので、現在裏方は生徒会の男性陣……リヴァルとスザクとそしてルルーシュだけだ。
このフェミニスト、とルルーシュが内心毒づいたのにも気付かず、スザクはいつものあの笑顔ですべての仕事を引き受けた。
背後を振り返れば、女生徒たちは色とりどりのドレスを身に纏いパーティーを楽しんでいる。
(まあ、確かにあの格好で裏方は、……酷だな)
ひまわりのようなオレンジ色のドレスに身を包んだナナリーが見える。ルルーシュが何日も前から大切な妹のために用意していたものだ。明るい栗色の髪をふたつに結び、ドレスとおそろいのオレンジ色の花をつけて。
柔らかいシフォンが幾重にも重なって作られたドレスは手触りも着心地も良く、視覚のないナナリーにもふわふわした感触を楽しんでもらえる。今朝、嬉しそうにドレスを抱きしめていたナナリーを思い出し、ルルーシュの頬も思わず緩んだ。
(そういえば……)
アリエスの離宮にいた頃。ナナリーはふわふわしたスカートが好きで、いつもくるくる回って広がるスカートを楽しんでいた。
『あーあー、こちらリヴァル。ルッルーシュー?』
余計なことに気を取られていた耳にリヴァルからの呼びかけが入る。中を見る視線はそのままにルルーシュは何だと応えを返した。
『スザクがさっき通りかかって、料理が全部出切ったってさ。今かかってる曲が終わったら、一旦ダンスタイム終了でいいよな?』
「ああ。ルミナスタワーは?」
『会長とシャーリーがスタンバってる』
ナナリーの横にいた咲世子がルルーシュに気付いて、ナナリーに何か話しかけている。自分がここにいるとでも言ったのだろうか。ナナリーの顔がこちらを向いて、花のようにふわりと笑う。小さく手を振る妹に、微笑みながら手を振り返して。
「それが終わればしばらく何もないな。おまえも休憩しろよ、リヴァル」
『さっきスザクが料理持ってきてくれたし、これでも食べて頑張るわー』
「下には行かないのか?」
『だってさあ、会長と踊れなきゃ意味ないし』
「踊ればいいじゃないか」
『曲かけてる間は俺はここっしょー?』
「一曲分くらい、スザクあたりに代わってもらえばいい。許可するぞ?」
からかい混じりでそう言えば、リヴァルが小さく唸った。おそらく彼は、こういうパーティーに慣れていないのだ。だからダンスと言われても……という感じなのだろう。
「会長は慣れてるから、うまくリードしてくれるぞ」
『おおーいっ! それって男としてどうなんだよっ』
「さあな。でも会長はそんなの気にするような人じゃないだろ?」
そうだけどさぁとまだぶつぶつ言っているリヴァルに笑みをこぼしつつ、ルルーシュはバルコニーを移動し始める。次のイベント、ルミナスタワーのための下準備をしなければならない。
ルミナスタワーはシャンパングラスを積み上げて作ったシャンパンタワーに、ふたつの液体を同時に注ぐというものだ。混ざり合った液体が化学反応を起こし、暗闇の中で発光する。徐々に色を変え七色に光るそのイベントは、ミレイを初め女性陣が何よりも楽しみにしていたものだった。シャンパンタワーは崩れないようあらかじめ細工がしてある。あとは、彼女たちが高い位置に上るので誰かが下で足場を見てやらないといけないのだ。
『あ、そうだ、会長がさ』
まだ繋がっていたのか。
聞こえてきたリヴァルの声にルルーシュは首を竦めた。
『監視はいいから、ルルーシュもスザクも休憩しなさいって言ってた』
「え?」
『ルミナスタワーはカレンもニーナもいるし、準備も実行も女だけで大丈夫だって。むしろ、ルルーシュやスザクが近くに来ると他の子たちが近付いてきて危ないから来るなって』
「なんだそれは」
『やー、まあ、正解っしょ。今日はルルーシュもスザクも、全然女の子相手にしてないしさあ。みんなおまえたち目当てに来てるのに。きっとここぞとばかりに群がるぜ?』
「……それは、嫌だな」
『ちっとは否定してください色男。あ、曲が終わる。ま、そんなワケだからルルーシュも休んでおけよー』
ブツッ。今度こそ通信が切れて、ルルーシュもインカムのスイッチをオフにした。
休んでいいと言われれば否やはない。こういうパーティーは嫌いではないが、あまり好んで出席したいものでもないのだ。
ふう、と溜息をひとつ。バルコニーの手すりに寄り掛かって光の溢れる室内を眺める。
空は真っ暗で何も見えなかった。室内の光に慣れてしまった目では無数に瞬く星は捉えられないだけなのか、それとも、租界では星の見えない天気なのか。
枢木神社では、空気がきれいだからか星が良く見えた。マリアンヌがいなくなり、日本へと追いやられて。周りは皆敵だらけだと、ルルーシュの神経は尖っていたけれど、星を見上げれば優しかった時間を思い出すことができた。
そしてそのうちスザクという友達ができ、日本での生活も楽しくなって――。
あの頃のことを考えると、優しくて悲しい気持ちしか出てこない。
「……感傷的だな」
寒いからか。ルルーシュはそうひとりごちて苦笑する。
「なにが?」
と、急に背後から声がかかって、ルルーシュは飛び上がった。いやもちろん実際飛び上がったわけじゃないが、飛び上がらんばかりに驚いた。
「スザク」
「すごい反応だなぁ。何が感傷的だって?」
「何でもない。お前、気配断つの癖になってないか」
「そんなことないよ。普通に近寄ったつもりだったんだけどな」
スザクがルルーシュの隣に立ち、同じように空を見上げる。そうして、星が見えないねと呟いたスザクに、ルルーシュはそうだなと相槌を打った。
「ダンスタイム終わったら休憩していいって。聞いた?」
「ああ。だからここにいるんだ」
「中には行かないの? 寒いよ、ここ」
「いい。あまり好きじゃないんだ、こういう集まり」
「ふうん。慣れてそうだけどなあ……」
「今は俺よりお前の方が慣れてるさ。ユフィと一緒にいるとあちこち護衛で行くだろう。そういう服も、板についてる」
スザクは白と青でデザインされた騎士服を纏っていた。ミレイがスザクの騎士服を見たいと言ったのが事の始まりで、正式なものはいくら何でも着れないと言ったら、じゃあ作っちゃいましょうと言われて。
「君もね。やっぱり、そういう服、似合ってる」
「……そうかな」
ならついでにルルーシュもリヴァルも新調しちゃいなさいとあれよあれよという間にデザインがなされオーダーメイドで衣装が出来上がった。スザクが騎士ならルルちゃんは皇子よ、といたずらっぽく笑ったミレイにぎくりとしたのはルルーシュとスザクだけで、すべてを知っているナナリーでさえも手を合わせてお兄様の礼装楽しみですなんてにこにこしながら言ってくれるものだから、断れなくなって。
皇子服とはいえ、前総督のクロヴィス他ブリタニアの王子たちが着るようなごてごてひらひらした服ではない。一応裏方という役目があるためタイトに作られたそれは、騎士服と言ってもおかしくないものだ。
「あ、」
室内の盛り上がりに、スザクが振り返った。
ふうっと消えた照明。チラチラと見える光はツリーに飾られた電灯のもの。あとはすべて闇に覆われ、しばらくそのまま時が止まる。
このまま闇に目が慣れれば星も見えるようになるかもしれない。ルルーシュが上を見上げていると、スザクが動いた。
「ルルーシュ。みんな、あっちに集中してる」
「ん?」
視線を戻す。目の前にスザクの瞳があって、うわ、と一歩後ずさる。
その様子にくすくすと笑い、スザクが少しだけ首を傾げた。
「……殿下」
何だそれは。
スザクの呼びかけに、ルルーシュは答えなかった。いくら自分が皇子のような服を着ていたって、いくらスザクがアッシュフォードが設えた騎士服を纏っていたって、自分たちはそういう関係ではない。
「駄目? じゃあ、ルルーシュ様?」
「…………やめろ気持ち悪い」
すぱっと斬って捨てると、スザクがひどいなあと口を尖らせる。
「いいじゃないか。……今日だけ」
伸ばされたスザクの指先。騎士らしく手袋に包まれたその手が、ルルーシュの手を取った。
室内ではルミナスタワーの説明が始まっている。ミレイたちのいるところにだけスポットがあたり、光を受けたシャンパングラスがきらきらと光っていた。
手の甲に口付けを落とし、スザクが上目遣いでルルーシュを見つめた。その顔には、穏やかな微笑。
「特別な日だから。今日は、君の騎士でいさせて。寒いって言ってたよね。……寒いなら、あたためてあげますから。ルルーシュ殿下」
再び室内が暗くなるのと、唇が重なるのと、どちらが早かっただろう。
頬に添えられた手袋越しのスザクの手。角度を変えて、幾度も触れ合うあたたかい唇。
「っ……」
だめ? なんて可愛らしく耳元で囁いてくる自称騎士の背中を、ルルーシュは思い切り叩いてやった。
主君に襲い掛かる騎士なんて聞いたことがないぞこの馬鹿。っていうかどっちの意味の『駄目』なんだ一体。
心の中では、そんな罵倒を。
けれど、唇は。
「……好きに、……しろよ」
枢木スザクという人物そのものに弱いルルーシュの唇は、そんな言葉を紡いでしまっていた。
たとえ本当の皇子と騎士だって、結末は変わらないに違いない。
気になっていた手袋を彼の手から引っ張って奪う。と、暗闇に乗じて再度唇を合わせられた。ルルーシュは静かに瞼を下ろす。
特別な日だなんて、思ってやらないぞ。
そんな風に呟けば、思わせてあげるよ、とスザクは笑った。
「今日は特別な日になるよ」
何の前触れもなく、スザクが言った。そんなことわからないと呆れたように返したら、そうかなと目を細めてルルーシュを見つめ、彼は微笑った。
そんな朝のやりとりから、かれこれ数時間。外はすでに真っ暗になっており、体力自慢のスザクが数日前からせっせと設置したイルミネーションが、パーティー会場を囲むようにしてきらきらと輝いている。
「……どこがだ」
ルルーシュはげんなりと重い呟きを落とした。
やっと抜け出してきたパーティー会場は人の渦だった。クリスマスだから盛大に! とミレイが企画したダンスパーティーは、自由参加だったにも関わらず参加者が多く、クラブハウスでは収まりきれないと判断したルルーシュが寮から少し離れた位置にある多目的ホールに移動させた。
全校生徒が悠々とおさまるはずのホールも、中央にダンスフロアが設けられており、天井に届くのではないかと思うほど大きなツリーが飾られているため、それほど広く感じられない。
パーティーはまだ始まったばかり。だが、生徒会役員は裏方の仕事が大いにある。
パーティーの進行はお祭り好きのミレイに任せておけばいいとしても、照明の操作や料理飲み物の給仕など、やることはいくらでもある。せっかくのパーティに女性が裏方じゃ可哀相だろうとスザクが言うので、現在裏方は生徒会の男性陣……リヴァルとスザクとそしてルルーシュだけだ。
このフェミニスト、とルルーシュが内心毒づいたのにも気付かず、スザクはいつものあの笑顔ですべての仕事を引き受けた。
背後を振り返れば、女生徒たちは色とりどりのドレスを身に纏いパーティーを楽しんでいる。
(まあ、確かにあの格好で裏方は、……酷だな)
ひまわりのようなオレンジ色のドレスに身を包んだナナリーが見える。ルルーシュが何日も前から大切な妹のために用意していたものだ。明るい栗色の髪をふたつに結び、ドレスとおそろいのオレンジ色の花をつけて。
柔らかいシフォンが幾重にも重なって作られたドレスは手触りも着心地も良く、視覚のないナナリーにもふわふわした感触を楽しんでもらえる。今朝、嬉しそうにドレスを抱きしめていたナナリーを思い出し、ルルーシュの頬も思わず緩んだ。
(そういえば……)
アリエスの離宮にいた頃。ナナリーはふわふわしたスカートが好きで、いつもくるくる回って広がるスカートを楽しんでいた。
『あーあー、こちらリヴァル。ルッルーシュー?』
余計なことに気を取られていた耳にリヴァルからの呼びかけが入る。中を見る視線はそのままにルルーシュは何だと応えを返した。
『スザクがさっき通りかかって、料理が全部出切ったってさ。今かかってる曲が終わったら、一旦ダンスタイム終了でいいよな?』
「ああ。ルミナスタワーは?」
『会長とシャーリーがスタンバってる』
ナナリーの横にいた咲世子がルルーシュに気付いて、ナナリーに何か話しかけている。自分がここにいるとでも言ったのだろうか。ナナリーの顔がこちらを向いて、花のようにふわりと笑う。小さく手を振る妹に、微笑みながら手を振り返して。
「それが終わればしばらく何もないな。おまえも休憩しろよ、リヴァル」
『さっきスザクが料理持ってきてくれたし、これでも食べて頑張るわー』
「下には行かないのか?」
『だってさあ、会長と踊れなきゃ意味ないし』
「踊ればいいじゃないか」
『曲かけてる間は俺はここっしょー?』
「一曲分くらい、スザクあたりに代わってもらえばいい。許可するぞ?」
からかい混じりでそう言えば、リヴァルが小さく唸った。おそらく彼は、こういうパーティーに慣れていないのだ。だからダンスと言われても……という感じなのだろう。
「会長は慣れてるから、うまくリードしてくれるぞ」
『おおーいっ! それって男としてどうなんだよっ』
「さあな。でも会長はそんなの気にするような人じゃないだろ?」
そうだけどさぁとまだぶつぶつ言っているリヴァルに笑みをこぼしつつ、ルルーシュはバルコニーを移動し始める。次のイベント、ルミナスタワーのための下準備をしなければならない。
ルミナスタワーはシャンパングラスを積み上げて作ったシャンパンタワーに、ふたつの液体を同時に注ぐというものだ。混ざり合った液体が化学反応を起こし、暗闇の中で発光する。徐々に色を変え七色に光るそのイベントは、ミレイを初め女性陣が何よりも楽しみにしていたものだった。シャンパンタワーは崩れないようあらかじめ細工がしてある。あとは、彼女たちが高い位置に上るので誰かが下で足場を見てやらないといけないのだ。
『あ、そうだ、会長がさ』
まだ繋がっていたのか。
聞こえてきたリヴァルの声にルルーシュは首を竦めた。
『監視はいいから、ルルーシュもスザクも休憩しなさいって言ってた』
「え?」
『ルミナスタワーはカレンもニーナもいるし、準備も実行も女だけで大丈夫だって。むしろ、ルルーシュやスザクが近くに来ると他の子たちが近付いてきて危ないから来るなって』
「なんだそれは」
『やー、まあ、正解っしょ。今日はルルーシュもスザクも、全然女の子相手にしてないしさあ。みんなおまえたち目当てに来てるのに。きっとここぞとばかりに群がるぜ?』
「……それは、嫌だな」
『ちっとは否定してください色男。あ、曲が終わる。ま、そんなワケだからルルーシュも休んでおけよー』
ブツッ。今度こそ通信が切れて、ルルーシュもインカムのスイッチをオフにした。
休んでいいと言われれば否やはない。こういうパーティーは嫌いではないが、あまり好んで出席したいものでもないのだ。
ふう、と溜息をひとつ。バルコニーの手すりに寄り掛かって光の溢れる室内を眺める。
空は真っ暗で何も見えなかった。室内の光に慣れてしまった目では無数に瞬く星は捉えられないだけなのか、それとも、租界では星の見えない天気なのか。
枢木神社では、空気がきれいだからか星が良く見えた。マリアンヌがいなくなり、日本へと追いやられて。周りは皆敵だらけだと、ルルーシュの神経は尖っていたけれど、星を見上げれば優しかった時間を思い出すことができた。
そしてそのうちスザクという友達ができ、日本での生活も楽しくなって――。
あの頃のことを考えると、優しくて悲しい気持ちしか出てこない。
「……感傷的だな」
寒いからか。ルルーシュはそうひとりごちて苦笑する。
「なにが?」
と、急に背後から声がかかって、ルルーシュは飛び上がった。いやもちろん実際飛び上がったわけじゃないが、飛び上がらんばかりに驚いた。
「スザク」
「すごい反応だなぁ。何が感傷的だって?」
「何でもない。お前、気配断つの癖になってないか」
「そんなことないよ。普通に近寄ったつもりだったんだけどな」
スザクがルルーシュの隣に立ち、同じように空を見上げる。そうして、星が見えないねと呟いたスザクに、ルルーシュはそうだなと相槌を打った。
「ダンスタイム終わったら休憩していいって。聞いた?」
「ああ。だからここにいるんだ」
「中には行かないの? 寒いよ、ここ」
「いい。あまり好きじゃないんだ、こういう集まり」
「ふうん。慣れてそうだけどなあ……」
「今は俺よりお前の方が慣れてるさ。ユフィと一緒にいるとあちこち護衛で行くだろう。そういう服も、板についてる」
スザクは白と青でデザインされた騎士服を纏っていた。ミレイがスザクの騎士服を見たいと言ったのが事の始まりで、正式なものはいくら何でも着れないと言ったら、じゃあ作っちゃいましょうと言われて。
「君もね。やっぱり、そういう服、似合ってる」
「……そうかな」
ならついでにルルーシュもリヴァルも新調しちゃいなさいとあれよあれよという間にデザインがなされオーダーメイドで衣装が出来上がった。スザクが騎士ならルルちゃんは皇子よ、といたずらっぽく笑ったミレイにぎくりとしたのはルルーシュとスザクだけで、すべてを知っているナナリーでさえも手を合わせてお兄様の礼装楽しみですなんてにこにこしながら言ってくれるものだから、断れなくなって。
皇子服とはいえ、前総督のクロヴィス他ブリタニアの王子たちが着るようなごてごてひらひらした服ではない。一応裏方という役目があるためタイトに作られたそれは、騎士服と言ってもおかしくないものだ。
「あ、」
室内の盛り上がりに、スザクが振り返った。
ふうっと消えた照明。チラチラと見える光はツリーに飾られた電灯のもの。あとはすべて闇に覆われ、しばらくそのまま時が止まる。
このまま闇に目が慣れれば星も見えるようになるかもしれない。ルルーシュが上を見上げていると、スザクが動いた。
「ルルーシュ。みんな、あっちに集中してる」
「ん?」
視線を戻す。目の前にスザクの瞳があって、うわ、と一歩後ずさる。
その様子にくすくすと笑い、スザクが少しだけ首を傾げた。
「……殿下」
何だそれは。
スザクの呼びかけに、ルルーシュは答えなかった。いくら自分が皇子のような服を着ていたって、いくらスザクがアッシュフォードが設えた騎士服を纏っていたって、自分たちはそういう関係ではない。
「駄目? じゃあ、ルルーシュ様?」
「…………やめろ気持ち悪い」
すぱっと斬って捨てると、スザクがひどいなあと口を尖らせる。
「いいじゃないか。……今日だけ」
伸ばされたスザクの指先。騎士らしく手袋に包まれたその手が、ルルーシュの手を取った。
室内ではルミナスタワーの説明が始まっている。ミレイたちのいるところにだけスポットがあたり、光を受けたシャンパングラスがきらきらと光っていた。
手の甲に口付けを落とし、スザクが上目遣いでルルーシュを見つめた。その顔には、穏やかな微笑。
「特別な日だから。今日は、君の騎士でいさせて。寒いって言ってたよね。……寒いなら、あたためてあげますから。ルルーシュ殿下」
再び室内が暗くなるのと、唇が重なるのと、どちらが早かっただろう。
頬に添えられた手袋越しのスザクの手。角度を変えて、幾度も触れ合うあたたかい唇。
「っ……」
だめ? なんて可愛らしく耳元で囁いてくる自称騎士の背中を、ルルーシュは思い切り叩いてやった。
主君に襲い掛かる騎士なんて聞いたことがないぞこの馬鹿。っていうかどっちの意味の『駄目』なんだ一体。
心の中では、そんな罵倒を。
けれど、唇は。
「……好きに、……しろよ」
枢木スザクという人物そのものに弱いルルーシュの唇は、そんな言葉を紡いでしまっていた。
たとえ本当の皇子と騎士だって、結末は変わらないに違いない。
気になっていた手袋を彼の手から引っ張って奪う。と、暗闇に乗じて再度唇を合わせられた。ルルーシュは静かに瞼を下ろす。
特別な日だなんて、思ってやらないぞ。
そんな風に呟けば、思わせてあげるよ、とスザクは笑った。
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