2009'03.23.Mon
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「は?どこにいるって?」
怪訝そうにそう問いかけながら、ルルーシュは手に持っていた携帯を耳に掛けるとオーブンと向き直った。オーブンは微かな駆動音を立てながら、中に入っているそれを完成に近づけてくれている。
『だから、ルルーシュと僕が初めて会った場所』
「ああ……」
予定より帰りが遅いと思ったらそういうことか。納得したのが半分、呆れが半分の笑みを浮かべる。
本来なら休日であるはずの今日、彼は朝から緊急事態だとか何だとか上司に呼び出しを受けてしまい、散々ごねながら出かけて行ったのだ。特別な予定があるわけではなかったが、今日は二人にとって『少しだけ特別な日』だった。示し合わせるわけでもなく、約束をするわけでもなく、言葉にしなくてもお互いに一緒にいようと心がける日。
そんな背景があったから、いつもなら呼び出しがあっても「仕事だろ」と一蹴するルルーシュも、今日ばかりはちょっと気の毒に思って彼の好きなものでも作ってやろうとキッチンに立っていた……のだが、どうやら機嫌は直っているらしい。
『何だか懐かしくなっちゃって。もう桜がたくさん咲いてるよ』
朝はどんより沈んでいたスザクの声は、いつも通りの明るいものになっている。この様子ならルルーシュ特製ミルフィーユは用なしかもしれないなと苦笑してしまった。
「あの時みたいに迷子になるなよ?」
ミトンを外しながらそう返すと、回線の向こうで子供じゃないんだからとスザクが笑った。
「桜か……。あの時も咲いてたな」
思い出しながらそう呟く。あの時、とは、スザクと初めて会った時のことだ。不正確な地図を片手に大きなショルダーバッグを抱え、桜の下で半泣きになっていた姿を思い出す。参考書を片手にのんびり通り掛ったルルーシュが、そのまま素通りできなかった――あれが、ルルーシュの未来を決めた。
『うん。同じ時期なんだから当たり前なんだけど、でも、あの時はこんな風にじっくり眺める余裕はなかったなぁ、って』
「それはお前が道に迷ってあたふたしてたからだろう?」
『それもあるけど。……だけじゃなくて、ルルーシュがいたから』
「俺?」
首をかしげながら時計を見上げて、ルルーシュはミトンを手にはめオーブンへと戻った。中を確認し、扉を開ける。パイの焼け具合は上々だ。
冷めるまでの間にフルーツを切り、生クリームを作って……あぁ、スザクが帰ってくるだろうから生クリームはスザクにやらせよう。
『声をかけてきてくれたルルーシュに、僕は一目惚れしたからね』
「……っ、な、」
頭の中でデコレーションの算段をつけていたため、咄嗟に言葉が出ない。思わず詰まってしまったのを誤魔化すように「馬鹿か」と呟けば、スザクはそんなルルーシュの照れ隠しに嬉しそうに笑ったようだった。
『ルルーシュ、今何してる?』
「アヌタヌーンティーのためのスイーツ作り。先週リクエストしてただろう」
『あ、ミルフィーユ?ホント?嬉しいな』
「そう思うなら早く帰って来い」
『うん。あ、でも、ちょっとだけ、こっちに来ない?ルルーシュ』
「桜を見に?」
『うん、桜。僕が帰って、改めて出てもいいんだけど、今日はあの時みたいにルルーシュを待ってみたいな』
スザクの小さなわがままに、しかたないなとルルーシュは頷いた。
「わかった、じゃあ、―――――」
そう答えかけた時。
ルルーシュの耳に、大きなブレーキ音が聞こえてきた。キキキキキ、という耳障りな金属と金属が擦れるような音。そして。
ブツッ、ツー、ツー、ツー……
「!?」
突然通話が途切れ、ルルーシュはぎょっと携帯を耳から外しすぐにスザクにかけなおした。
だが何度試しても、お繋ぎできませんという無機質な音声に切り替わるだけで、スザクが出ない。
切れる寸前のあのブレーキ音。それと連動するように切れた通話。
まさか。
(まさか、スザクが)
そんな、はず。
「……っ」
エプロンを外して椅子に投げ、ハンガーから上着をひったくるようにして持つとルルーシュはマンションを飛び出した。上ってくるのが遅いエレベーターが待てず階段を使って一階まで降り、駅まで走って電車に飛び乗った。
車内で息を整え、それまでにも何度か携帯を弄ってみる。だがやはり応答は同じ言葉を繰り返す機械の声だけ。
(そんなはずはない……!)
脳裏に描かれてしまう最悪の状態を必死で打ち消して、目的の駅に着くとルルーシュは再び走り出した。
体力がないから、あっという間に息が上がる。スピードが落ちる。いつもならもう歩いているだろうというところまで疲労しても、ルルーシュは気力だけで走り続けた。
(あの、角を、曲がれば)
もうすぐ、あの場所に着く。
曲がったら救急車が来ているかもしれない。あたりが血の海だったらどうする。救急車も到着せず酷い有様だったらどうする。
ぐるぐると嫌な予想ばかりが駆け巡ったが、ルルーシュはそれを振り切って角を曲がった。
と。
「ルルーシュ!」
桜が咲いていた。その下に、笑顔のスザクがいた。
「ごめん、携帯が充電切れしちゃったみたいで……。でも通じたかなと思ったから待ってたんだけど」
どこにも、怪我は、ない。
「走ってきたの?……ルルーシュ?大丈夫?」
膝に手をついて息を整えながら、呆然とスザクを見つめているだけのルルーシュを不思議に思ったのか、スザクが顔を覗き込んでくる。
無事だった。何ともなかった。事故かと思った。心配して、失ってしまうのかと、恐怖と戦いながら、ここまで来たのに。ルルーシュの勘違いだった?
「……っの、馬鹿が!!」
拳を作りふるふると震わせていたルルーシュが、爆発した感情のままにスザクの腹へ一発お見舞いする。
「ぐえっ」
続けて今度は胸倉を掴むとぎりぎりと締め上げた。
「ぐえっじゃない!あんな状態で充電切れしてそのまま放っておくな!俺がどんな思いでここまで来たと……っ」
「へ?あんな状態って、」
「ブレーキ音!俺は、もしかしたらお前が、……っ」
「あ……」
合点がいったのか、スザクがはっとしたような表情になった。そして胸倉を掴むルルーシュの手に自分の手のひらを添え、ごめんね、と囁きを落とした。
「心配してくれたんだ?」
「……」
「本当にごめん。……そんな泣きそうな顔しないでよ、ルルーシュ」
「誰が泣くか!」
「うん、ごめん」
「…………わざわざこんなところに呼び出して、何がしたかったんだ」
「あ、うん、……ええと、これ」
「?」
「偶然だったけど、ルルーシュと出会って、一緒に暮らすようになって、今年で10年だから……何かあげたいなあと思って」
「……リング?」
「うん。何がいいかすごく悩んだんだけど、やっぱり、こういうのしか、思いつかなくて。……チェーンも入ってる、から、指じゃなくても、身に着けててくれると嬉しいなと、」
「…………」
「……ルルーシュ?こういうの、嫌いだった……?」
「……、ない」
「え?」
「嫌いじゃ、ない。……ありがとう。……大切にする」
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最後は力尽きました、すみません;(台詞のみでごめんなさー;;)
ある意味ばかっぷる!(笑)
「は?どこにいるって?」
怪訝そうにそう問いかけながら、ルルーシュは手に持っていた携帯を耳に掛けるとオーブンと向き直った。オーブンは微かな駆動音を立てながら、中に入っているそれを完成に近づけてくれている。
『だから、ルルーシュと僕が初めて会った場所』
「ああ……」
予定より帰りが遅いと思ったらそういうことか。納得したのが半分、呆れが半分の笑みを浮かべる。
本来なら休日であるはずの今日、彼は朝から緊急事態だとか何だとか上司に呼び出しを受けてしまい、散々ごねながら出かけて行ったのだ。特別な予定があるわけではなかったが、今日は二人にとって『少しだけ特別な日』だった。示し合わせるわけでもなく、約束をするわけでもなく、言葉にしなくてもお互いに一緒にいようと心がける日。
そんな背景があったから、いつもなら呼び出しがあっても「仕事だろ」と一蹴するルルーシュも、今日ばかりはちょっと気の毒に思って彼の好きなものでも作ってやろうとキッチンに立っていた……のだが、どうやら機嫌は直っているらしい。
『何だか懐かしくなっちゃって。もう桜がたくさん咲いてるよ』
朝はどんより沈んでいたスザクの声は、いつも通りの明るいものになっている。この様子ならルルーシュ特製ミルフィーユは用なしかもしれないなと苦笑してしまった。
「あの時みたいに迷子になるなよ?」
ミトンを外しながらそう返すと、回線の向こうで子供じゃないんだからとスザクが笑った。
「桜か……。あの時も咲いてたな」
思い出しながらそう呟く。あの時、とは、スザクと初めて会った時のことだ。不正確な地図を片手に大きなショルダーバッグを抱え、桜の下で半泣きになっていた姿を思い出す。参考書を片手にのんびり通り掛ったルルーシュが、そのまま素通りできなかった――あれが、ルルーシュの未来を決めた。
『うん。同じ時期なんだから当たり前なんだけど、でも、あの時はこんな風にじっくり眺める余裕はなかったなぁ、って』
「それはお前が道に迷ってあたふたしてたからだろう?」
『それもあるけど。……だけじゃなくて、ルルーシュがいたから』
「俺?」
首をかしげながら時計を見上げて、ルルーシュはミトンを手にはめオーブンへと戻った。中を確認し、扉を開ける。パイの焼け具合は上々だ。
冷めるまでの間にフルーツを切り、生クリームを作って……あぁ、スザクが帰ってくるだろうから生クリームはスザクにやらせよう。
『声をかけてきてくれたルルーシュに、僕は一目惚れしたからね』
「……っ、な、」
頭の中でデコレーションの算段をつけていたため、咄嗟に言葉が出ない。思わず詰まってしまったのを誤魔化すように「馬鹿か」と呟けば、スザクはそんなルルーシュの照れ隠しに嬉しそうに笑ったようだった。
『ルルーシュ、今何してる?』
「アヌタヌーンティーのためのスイーツ作り。先週リクエストしてただろう」
『あ、ミルフィーユ?ホント?嬉しいな』
「そう思うなら早く帰って来い」
『うん。あ、でも、ちょっとだけ、こっちに来ない?ルルーシュ』
「桜を見に?」
『うん、桜。僕が帰って、改めて出てもいいんだけど、今日はあの時みたいにルルーシュを待ってみたいな』
スザクの小さなわがままに、しかたないなとルルーシュは頷いた。
「わかった、じゃあ、―――――」
そう答えかけた時。
ルルーシュの耳に、大きなブレーキ音が聞こえてきた。キキキキキ、という耳障りな金属と金属が擦れるような音。そして。
ブツッ、ツー、ツー、ツー……
「!?」
突然通話が途切れ、ルルーシュはぎょっと携帯を耳から外しすぐにスザクにかけなおした。
だが何度試しても、お繋ぎできませんという無機質な音声に切り替わるだけで、スザクが出ない。
切れる寸前のあのブレーキ音。それと連動するように切れた通話。
まさか。
(まさか、スザクが)
そんな、はず。
「……っ」
エプロンを外して椅子に投げ、ハンガーから上着をひったくるようにして持つとルルーシュはマンションを飛び出した。上ってくるのが遅いエレベーターが待てず階段を使って一階まで降り、駅まで走って電車に飛び乗った。
車内で息を整え、それまでにも何度か携帯を弄ってみる。だがやはり応答は同じ言葉を繰り返す機械の声だけ。
(そんなはずはない……!)
脳裏に描かれてしまう最悪の状態を必死で打ち消して、目的の駅に着くとルルーシュは再び走り出した。
体力がないから、あっという間に息が上がる。スピードが落ちる。いつもならもう歩いているだろうというところまで疲労しても、ルルーシュは気力だけで走り続けた。
(あの、角を、曲がれば)
もうすぐ、あの場所に着く。
曲がったら救急車が来ているかもしれない。あたりが血の海だったらどうする。救急車も到着せず酷い有様だったらどうする。
ぐるぐると嫌な予想ばかりが駆け巡ったが、ルルーシュはそれを振り切って角を曲がった。
と。
「ルルーシュ!」
桜が咲いていた。その下に、笑顔のスザクがいた。
「ごめん、携帯が充電切れしちゃったみたいで……。でも通じたかなと思ったから待ってたんだけど」
どこにも、怪我は、ない。
「走ってきたの?……ルルーシュ?大丈夫?」
膝に手をついて息を整えながら、呆然とスザクを見つめているだけのルルーシュを不思議に思ったのか、スザクが顔を覗き込んでくる。
無事だった。何ともなかった。事故かと思った。心配して、失ってしまうのかと、恐怖と戦いながら、ここまで来たのに。ルルーシュの勘違いだった?
「……っの、馬鹿が!!」
拳を作りふるふると震わせていたルルーシュが、爆発した感情のままにスザクの腹へ一発お見舞いする。
「ぐえっ」
続けて今度は胸倉を掴むとぎりぎりと締め上げた。
「ぐえっじゃない!あんな状態で充電切れしてそのまま放っておくな!俺がどんな思いでここまで来たと……っ」
「へ?あんな状態って、」
「ブレーキ音!俺は、もしかしたらお前が、……っ」
「あ……」
合点がいったのか、スザクがはっとしたような表情になった。そして胸倉を掴むルルーシュの手に自分の手のひらを添え、ごめんね、と囁きを落とした。
「心配してくれたんだ?」
「……」
「本当にごめん。……そんな泣きそうな顔しないでよ、ルルーシュ」
「誰が泣くか!」
「うん、ごめん」
「…………わざわざこんなところに呼び出して、何がしたかったんだ」
「あ、うん、……ええと、これ」
「?」
「偶然だったけど、ルルーシュと出会って、一緒に暮らすようになって、今年で10年だから……何かあげたいなあと思って」
「……リング?」
「うん。何がいいかすごく悩んだんだけど、やっぱり、こういうのしか、思いつかなくて。……チェーンも入ってる、から、指じゃなくても、身に着けててくれると嬉しいなと、」
「…………」
「……ルルーシュ?こういうの、嫌いだった……?」
「……、ない」
「え?」
「嫌いじゃ、ない。……ありがとう。……大切にする」
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最後は力尽きました、すみません;(台詞のみでごめんなさー;;)
ある意味ばかっぷる!(笑)
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