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咲良の徒然気まま日記。 ゲームやらアニメやら漫画やらの感想考察などをつらつらと。 しばらくは、更新のお知らせなどもここで。

2024'05.19.Sun
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2009'03.24.Tue
先日書いていた通り、冬コミポスカからの再録です。
一応アスランお誕生日ネタ。

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 宿舎の屋上に出ると、フェンス越しにMSが移動していく様子が見えた。
 キラが今いるのはザフトの新基地であるヴァルハル・ワンにある宿舎だ。自分たちがオーブで生活している間に、プラントも随分変わってしまっていた。
 先の戦いで破壊されたプラントはヤヌアリウスの4基とディセンベルの2基……その6基は未だ消滅したままになっており、別に新しいエリアが出来上がっていた。そのうちのひとつがこのヴァルハルで、今はアーモリーに続くザフトの新しい軍事基地となっている。
(難しいな)
 キラの髪を、MSが通り過ぎる時の風圧がゆらゆらと揺らす。その前髪で表情を隠すように俯いて、キラは小さくため息をついた。
 世界から戦争を失くしたい。戦争を終わらせたい。そしてもう二度と、そんなことが起きないようにしたい。
 おそらく願いはどの人も同じなのに、それでもこうして国は軍事力を蓄え高めずにはいられないのだ。それは『もし』と戦争の再来を恐れてしまうからであり、自分たちは弱くない、と力を誇示し周りを牽制するためでもある。
 パワーバランスが壊れることが、一番戦いを生みやすい。
 それを知っているから、どの国も軍事に力を注ぐことをやめられない。コーディネイターたちがプラントを出て地球の各国で暮らすようになってからは、その技術も知識もほぼ均等といっていい状態になっている。それが更に新しいMS開発に拍車をかけている。
 プラントにはラクスが、地球側にはカガリがいる。今は二人の尽力もあり落ち着きを見せているけれど――時間がたてばどうなるかわからない、というのがこちらの評議会の見方だった。
 プラントに恨みを持つ国は多い。破壊された6基のプラントに肉親がいた者は、今でも地球軍を恨んでいる。ブルーコスモスの残党も残っている。デュランダルの思想こそが正しいと、新しく党が立ち上がったという噂もある。ザフトや地球軍とは別の場所で、新しいMS開発が進められているという情報もあった。


「キラ!」
 MSの駆動音にかき消されないようにか、少し強い声がキラを呼んだ。振り返るとシンがこちらに向かって歩いてくるところで、その後ろにはルナマリアが見えた。
「シン。ルナマリアも」
「携帯! 持って行けって言ったのに忘れんな!」
「え? あ、そういえば」
 キラがこのプラントに来てから、ラクスから携帯が渡された。プラント国内もしくはその周辺でしか使えないものだが、護衛以外の任務では会えない彼女と連絡を取るのに役立っている――のだが、今まで持つことがなかったので、ついつい部屋に置き忘れてしまう。
「探した?」
 むくれているようなシンに笑いながらそう問えば、探した! と怒鳴り返された。そんなに大きな声じゃなくても聞こえるよ、と苦笑すると、シンの背後でこちらを見つめているルナマリアと目が合った。キラの視線に気付いてルナマリアが微笑み、ぺこりと頭を下げる。
 彼女は普段シンと共に行動することは少なかった。キラの隊はラクスの護衛と新人パイロットの育成が主な任務で、彼女の属する隊はイザークたちの下につき宇宙へ出ていることが多かった。
 彼女はシンを地球へ送り出した人物で、シンのことをよく知る、彼の理解者だった。ルナマリアがいなければシンはキラやアスランとオーブで暮らすこともなかったかもしれない。
 そんな理由からキラは彼女のことをシンの唯一だと思っていたし、彼女がプラントに戻ってきている時にはできるだけシンとルナマリアが会えるよう、近い場所に滞在するようにしていた。
 ……ルナマリアは、たぶんそれに気付いている。
「ったく、管制から連絡入ったらすぐに教えてって言ったのはあんただろ!」
「あっ、もしかして復旧した?」
「した!」
 シンが手に持っていた小型端末をキラの胸に押し付けた。
「早くしないと、あっちの時間とこっちの時間ずれがあるから間に合わないからな!」
「うん。ありがとう」
「間に合わなくて拗ねたあの人に八つ当たられるのは俺だから! あと、イザークさんから伝言。会議が終わるのは1800、その後議員たちの会食があるから出席するように、って」
「げ」
「げ、じゃない。俺は伝えたからな。バックレんなよ、キラ」
 そう怖い顔でキラに念を押してくるシンに、キラは笑いながら頷いた。こういうところ、本当に最近『あの人』に似てきたようなあと思ってしまう。
 キラの表情をどうとったのか、俺もルナも出席するから、とシンが付け足した。
「わかった。これ、本当にありがとう。シン」
 そう言うだけで、シンがほっとしたような表情になるから。それを知っているから、キラは何でもないことのように笑ってみせる。
 キラが評議会の面々と顔を合わせるのが苦手だと、シンは知っているのだ。
 評議会や軍の上層部はキラのことを持ち上げるだけ持ち上げて、とにかくストライクフリーダムという大きな力を……キラ・ヤマトというコーディネイターの完全体である自分の能力を、どうにかしてプラントにとどめておきたいらしい。そんな思惑を隠しもせず、そこかしこに撒き散らしてくる彼らが、キラには気持ち悪くて仕方ない。
 先の大戦でラクスのもとで大きな戦績をあげている自分の力が利用されるのは仕方のないことだと思っているし、『白き悪魔フリーダムガンダム』という異名がついていることも知っている。
 その辺の意識の改革も、キラやラクスの計画の中にはあるのだが――道のりは長く終着点は遠かった。


『……キラ?』
「うん。お疲れ様、アスラン。もう寝るところだった?」
 プラントと地球の時間は場所によって時間のズレがある。オーブは今、夜の23時頃のはずだった。
『いや、まだ書類のまとめが残ってて。そっちは今、夕方か? ラクスは?』
「今、会議中。イザークが一緒に出席してるから僕は待機なんだ。それより、アスラン」
 あちらの正確な時間はわからないが、23時台であることは間違いない。アスランと話をし始めてしまうとついつい近況報告――ほとんどが軍事や政治に関することで、雑談などではない――に陥りがちで、伝えようと思っていた個人的な話を忘れてしまう。
 けれど今日だけはそうなってしまってはいけないのだ。おそらく彼は、そんなこと気にもしてないだろうけど。
「誕生日、おめでとう」
 キラがそう言うと、回線の向こうでアスランが目を瞬かせた。携帯端末の小さな画面だが、そんな様子は良く見える。
『……あ、』
「やっぱり忘れてたんだ。カガリ、何か言ってなかった? うちの母さんとか」
『あ、いや、……そうか、そういうことか』
 アスランは呆けた後、バツの悪そうな顔をして視線をさまよわせた。
『カガリがマルキオ導師のところの子供たちと食事の約束をしてきたって、言ってた。本当は今日じゃなくちゃ意味ないんだけど、今日ははどうしてもはずせない会議が遅くまであるから明日な、って言われたんだが……』
「うん、それだね、きっと」
 おめでとう、という単語はもらわなかったのだろうか。いや、彼のことだ、言われても何のことかわからずに曖昧な返事を返してそのままになっているのかもしれない。
 シンは八つ当たりされるなどと言っていたが、本人が覚えていないのだ、そんなこともなかったのかもしれない。というより、アスランがシンに八つ当たりする様子なんて、キラには想像できない。
「本当は日付が変わったらすぐに、とか思ってたんだけど……うまく時間の調整ができなくて遅くなっちゃった」
『いいんだ。ありがとう。声が聞けただけで嬉しいよ』
「そ、う。……うん、なら、よかった」
 最近アスランはさらりとこういう台詞を吐く。キラだって言う時は言うのだが……割と意図的なこういう台詞は得意だったりするのだが、言われるのはまた違う。慣れていないせいかどう返していいかわからなくなるのだ。
「アスラン、それ天然だよね?」
『は? 何がだ?』
 思わず聞き返すとそんな返事が返ってきて、そうだよね天然だよね、とキラは繰り返した。ああ、そうだ、彼が女性に好かれる理由はおそらくこうい部分があるからなのだ。
『もしかして、この通信は誕生日だから?』
「……、うん、そう」
 キラの答えに嬉しそうに笑う彼に、キラは何だか申し訳なくなった。
 プラントに来た頃は、ザフトの生活に慣れることで精一杯だったのと声を聞いたら会いたくなってしまいそうなのとで通信を控えていた。それが落ち着いて定期的に通信を行うようになったのはつい最近で、だが何か問題があったり報告があったり相談があったり、とにかくプライベートな内容ではなかったのだ。だから、こちらに来てからは、これが初めてのプライベート通信。
 アスランはキラの大変さを誰よりも理解してくれていたし、キラが連絡するたびに報告した事柄について真剣に考えてくれた。キラが悩んでいることは一緒に考えてくれたし、オーブでの出来事も事細かに教えてくれた。キラが弱音を吐かないからか、彼もそういう言葉を口にしなかった。
 会いたいなとは何度も思ったけれど、本当は何度も触れたいなと思ったけれど、そんなことを言うこともなくて。
「ねえ、アスラン……」
 だから、彼がこんな些細なことで本当に嬉しそうにしてくれるのを見て、抑えていたはずの気持ちが少しだけ緩んだ。
『ん?』
「プレゼント、何も贈れなくてごめん」
『いいよ。キラが覚えていてくれただけで』
「うん、でも。でもさ、今度。いつになるか、わからないけど、」
 キラは一度言葉を切って、指先で画面の中のアスランの頬を撫でた。
「会った時に、お祝いしようね」
 キラの言葉に、彼はまた破願する。
 会える日なんて、本当にいつになるかわからない。今はプラントにいてばかりだが、いつかはキラも宇宙へ出る日が来るかもしれない。彼がプラントに来ても会えなくなる可能性もあるし、彼の滞在が政治的なものならアプリリウスしか滞在を許されないかもしれない。その辺はラクスが権力を使ってでもなんとかしてくれてしまいそうだが。
『楽しみにしてる』 
 もしかしたら、いつか、がキラの誕生日を過ぎてしまって、お互いにお祝いするようなことになるかもしれないし、二度目の誕生日も一緒になってしまう可能性だってある。先のことはどうなるかまったくわからないけれど。
「僕も、楽しみにしてる」
 会えない時間も、いつか、のその日を思うだけで頑張れそうな気がするから。


 通信を終え端末を閉じると、キラは暗くなり始めた空を仰いだ。
 人工の空に明るい星がひとつ、瞬いていた。
「――アスラン、……」
 この宇宙のずっとずっと向こうにいる彼に想いを馳せ、目を閉じる。
 そして次に瞼を上げたキラは、一瞬にして表情を軍人のものに変え歩き出した。
 いつか、彼に胸を張って会えるように、今は戦う。今現在のキラの戦場は、このザフト軍の中にあるのだから。
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