うわっ、という悲鳴と供に、シンの背後で何かが転がり落ちた。
シンの記憶が正しければ背後にあるのはごみ置き場で今日の燃えるごみがぎっしりと溜まっていて、三方は壁に囲まれており入り口は今シンが向かっている方向だけ。更には、その頭上には青空が広がっているだけ――なはずだっだ。
だからどう考えても人の声にしか捉えられなかった『それ』を確かめたくなくて、なんで足を止めてしまったのかと後悔しながら、シンはそのまま振り向かずに一歩を踏み出した。
「ちょっ……ひどいな、普通は振り向くくらいしない?」
ぱんぱん、とズボンでも払っているのか軽い音が響く。
「意識はしっかりこっち向いてるのに、頑固だねキミ」
とりあえず普通の会話ができる『もの』だったらしい。
「ねえってば」
「うっせぇなっ!!」
怒鳴り返し、睨み付けるように後ろを振り返り、シンはぎょっと上半身を引いた。
「油断しすぎ」
口端を吊り上げ笑う『それ』は、シンの目の前に立っていた。あと数センチ、というほど傍に。
「嫌な予感には従ったほうが身のためだと思うよ?」
「……っせぇッ」
掠れそうになる声を押し出し、瞬時に周りを見渡す。逃げ道は背後のみだ。
「キミ、いい素質を持ってる」
つっと指先がシンの胸を指してくる。
「あんた、……っ!」
その指先にトン、と胸元を押された途端、シンはぐらりと眩暈を起こし膝をついた。
「ちょっと感性が強すぎるけど……彼が欲しがる理由がよくわかるな」
「な……っに……」
目の前に立つ『それ』は、シンの目には背に大きな黒い翼を持った人外のものに見えた。羽音は聞こえないが、時々その黒い翼が動き、羽が散る。
眩暈はそれのせいだ。強い瘴気にあてられている。羽からぼんやりとたつ、黒いオーラ、が……。
「あ」
小さな呟きが聞こえてふと眉をひそめると、不意にシンの眩暈が軽くなった。
「キラ」
そして、もうひとつ――シンの前に影が舞い降りる。
「……!」
胸を押さえたまま、シンは目を見開いた。
「……接触するのはやめろと言っただろう」
「だって落ちちゃったんだよ。不可抗力」
「おまえな、……いや、小言は後だ」
アスラン。
シンは唇を噛み締めると数歩後退した。
シンの様子にただ眉をくもらせ、アスランがひとつため息をつく。
「……悪かったな。危害を加えるつもりじゃないんだ」
「アンタ、まだこんなとこにいたのかよ」
「色々事情があって」
「そっちの事情なんか知らない!俺を巻き込むなよ!」
「ああ……悪かった」
アスランの表情は変わらない。怒りも、悲しみも、何も窺えない。
「黙って聞いてれば……アスランがここにいるのは誰のためだと思っ」
「キラ!!」
アスランに遮られ、『キラ』が口を噤む。
アスランとは違い、こっちは表情がくるくる変わる。アスランの背後で腕を組みこちらを見つめる瞳は、紫。その紫が何故かシンを憐れむように見つめていて。
「……ッ」
勢い良く立ち上がると、シンはザッと地を蹴った。
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