2008'05.10.Sat
*-*-*-*-*-*
ルルーシュは頬杖をつくと窓の外を眺めた。教壇で喋り続ける教師の声は単調で、やたらと眠気を誘うため教室では居眠りをしている者も多い。
今日は何か軍のほうで用でもあったのか、ルルーシュの隣の席には誰も座っていなかった。
昨日の今日だ、会いたくなどない。だから来ないとわかったとき少しだけほっとした。
昨夜のことを思い出すと、もう何も入っていないはずのそこがじくりと痛む。ルルーシュの腕を無理矢理剥ごうとはせず、押し殺した喘ぎを咎めることもなく。少しくらい無茶をされても仕方ないと諦めていたというのに、腹に付くほど自身を聳り立たせておきながら急くこともなく。
一年前の彼からは考え付かないほど、落ち着いた行為だった。ルルーシュの様子を窺いながら動き、理性を振り切るようなことはしない。中に出すようなこともしなければ、もう一度と次を求めてくることもない。
だが、最中の癖は、やはりそのままで――その事実が、ルルーシュの心をざわつかせた。挿れる直前に掠れた声で名前を呼ぶこと。奥まで入ったそのあとで、一度口付けてくること。限界が近くなったときに額を合わせてくること。
スザクが何を考えているのか、今のルルーシュにはわからない。機情の中でもスザクは多くを語らないようで、ロロも彼に関しての情報を持っていない。
彼は何故、ルルーシュに近付くだけではなく身体まで求めようとする? しかも、ただ求めるだけでなく、彼のやり方は……まるで、ルルーシュとの関係を、修復しようとしているかのような……。
(馬鹿げている)
何をするんだと撥ね付ければ忘れてしまったのかと首をかしげ、そんな事実はないと逃げようとすれば力づくでもいいんだけどと薄く笑みを浮かべながら抱きしめてきた。耳元で、僕は忘れていない、寂しかった、と囁かれたときは本気で悪寒がはしった。
どの口がそんなことを言うのか。一体どんな顔をしてそんな言葉を。
強く抱きしめられていたために顔は見えなかったが、おそらく無表情のままなのだろう。感情のこもらない言葉など寄越さなくていい。あんな茶番劇につき合わされるのなら、まだ憎しみのこもった目で見つめられ、怒気のこもった声で詰られたほうが何倍もマシだった。
(ああ、そうか)
ならばこれも復讐のひとつなのだろうか。それなら仕方ないと思う自分に笑いがこみ上げてくる。
どうするべきなのか迷った末、ルルーシュは彼を受け入れてしまった。それまでは、俺にはその気もなければそんな記憶もないと突っぱね続けていた。けれどいずれ彼は同意などなくても力で屈服させようとするだろうと予測していた。
それがナイト・オブ・セブンの――ブリタニアの白き死神のやり方だからだ。
たった一機で戦局をひっくり返すナイト・オブ・ラウンズの七番目。戦地に赴き、相手に優しそうな言葉を投げかけたあと、容赦なくナイトメアを破壊しつくす。それがブリタニアの白き死神ランスロット。慈悲のないその戦いぶりはブリタニアでは大きく賞賛され、未だ続くEU戦では領土争いに貢献し、いくつもの武勲をあげている。
そんな噂を聞いて、あいつが、と不思議に思ったのを覚えている。銃を向け合ったことを忘れた自分は、クラスメイトだった枢木スザクのことを『正義感のある優しい奴』と認識していた。だから、不思議だったのだ。あんなに優しい彼が、戦場で人を殺していることが。そしてその功績で、のし上っていこうとしているのが。
その切欠をつくったのが自分だなんて、すっかり忘れて。
(だから、当然だと思っていた)
スザクがそのやり方で、強引にルルーシュを抱こうとしても。けれど実際彼はルルーシュが許すまで待っていた。多少強気で近付かれた感はあるが、それでも力を振りかざしてルルーシュを傷つけるようなことはしなかった。
何故? 考えても分からない。
友達だから? いや、彼が自分を手に入れようとしていることを思えば、友達と言う定義はおかしい。
以前の関係がそうだったから? そんなはずがない。いまここにいるのはスザクとの関係を忘れてしまったただ人だ。スザクだってそれは気づいているはず。そもそも抱き合うような関係は、過去引き裂かれた互いへの執着と、通じ合えないもどかしさが生んだものだ。たった一年共に過ごしただけのクラスメイトとそんな関係になるものか。
ならば……ただ単純に性欲処理のためにルルーシュを抱くのか。わざわざ男を抱かなくても、ナイト・オブ・セブンともなれば言い寄ってくる女性などいくらでもいるだろうに。
力で押さえつけられるのだけは許せなかった。だからそうなる前に自分自身の意志で彼を受け入れた。ねじ伏せられたわけじゃない、これは対等な関係だと告げるように。
(スザクの心情など知らない。だが)
けれどおそらく。ルルーシュが今感じているものが正しいのだとしたら。
ルルーシュに向けられる視線も延ばされる腕も。
(……執着、だろう。それは)
身体が目当てなのか、ルルーシュの自由を奪うことが目的なのか、それとも抱くことによって記憶の綻びをみつけようとしているのか……彼の行動の根源はわからないけれど。
(ならば、俺もそうしよう。お前を、繋ぎとめてやる)
自分に。ルルーシュ・ランペルージに。
記憶の有無など関係なくなるように。……ロロにしたように、優しく攻略してあげようじゃないか。
機情の連中はヴィレッタとロロを除いた全員にギアスをかけてある。ヴィレッタのことは扇のおかげで解決した。ロロももう問題ない。残るは、スザクのみ――。
一番厄介な相手だが、攻略できればこれほど有力な駒はない。利用する。利用してやる。
スザクの持つ感情も欲望もその力もすべてまとめて。
……その先に、自分たちの新しい関係性がある。敵か味方か、白か黒か。真実か虚偽か。
そんな風に考えること自体が、もう、ルルーシュが彼を、
「ルルーシュ」
突然声をかけられて、ルルーシュははっと顔をあげた。反射的に少し身を引くと、隣の机に鞄を置いたスザクが僅かに目を細めた。
「おはよう」
「あ、……あぁ、おはよう。重役出勤だな」
「うん、ちょっと軍のほうでトラブルがあってね。総督のお出迎えの準備もあるし」
「……そう、か」
言葉を続けることなくルルーシュは目を伏せる。スザクにはこういう態度が有効だと知ってのことだ。
案の定スザクはそんなルルーシュに眉をひそめる。
「もしかして、具合悪い? ……昨日のせい、かな。ごめん」
「違う。大丈夫だ」
「あんまり顔色がよくない。辛かったら無理しないで言って。保健室まで連れて行くから」
「冗談だろ、保健室くらいひとりで行ける」
「君の場合は――」
スザクがふっと表情を改めた。心配そうな、優しさを表に出したそれから一変、鋭い眼光を宿す。
「付き添わないと、保健室に行くといいながら、どこか違うところへ行ってしまいそうだから」
ああ、そういうことか。ルルーシュは心の中でくすりと笑った。やはりスザクはルルーシュがゼロだと、記憶がすべて戻っているはずだと、疑い続けているのだ。
ルルーシュを抱こうとするのもその一環か。確かに、そういう関係になってしまえば共にいる時間は長くなるだろう。重要な作戦がある前日に抱き潰してしまえば当日ルルーシュが動けないと目論んでいる可能性もある。
そう考えておけば、迷いも消える。ルルーシュは静かに眦を伏せた。
「ひどい言われようだな」
「心当たりがあるだろ?」
「ないよ。まあ、あまり酷ければ保健室よりも自分の部屋に戻る方がいいけど」
「ああ、それもいいね」
くすりとスザクが笑った。唇を舐める仕草が彼の考えを物語る。
「…………しばらくは、したくない」
呟くと、スザクが無言で椅子に腰を下ろした。
「あちこち、痛いんだ。……ロロも不審がってる」
「ロロが?」
「変化に敏感なんだ、あいつ。弟には心配をかけたくないから……体調を崩すようなことは、避けたい」
「わかってる。無理強いはしないよ。その代わり、」
スザクが微笑んだ。
「今度、総督に会ってあげてくれないかな」
酷薄な笑みがそう告げる。その表情を見た瞬間、ルルーシュは屋上で口付けられたときのことを思い出した。あのときも彼は今のような表情でルルーシュを引き寄せていた。
そして、聞こえるか聞こえないかの、本当に微かな声で。
―――ルルーシュ……
彼が囁いた言葉が、今も脳裏から消えない。
―――落ちておいでよ……
その声が、ルルーシュの知る、ルルーシュが求めた少年の本心からの声だと感じただなんて。
(認めるものか……そんなことをしたら、)
身動きが取れなくなるとわかっているのに。
ルルーシュは頬杖をつくと窓の外を眺めた。教壇で喋り続ける教師の声は単調で、やたらと眠気を誘うため教室では居眠りをしている者も多い。
今日は何か軍のほうで用でもあったのか、ルルーシュの隣の席には誰も座っていなかった。
昨日の今日だ、会いたくなどない。だから来ないとわかったとき少しだけほっとした。
昨夜のことを思い出すと、もう何も入っていないはずのそこがじくりと痛む。ルルーシュの腕を無理矢理剥ごうとはせず、押し殺した喘ぎを咎めることもなく。少しくらい無茶をされても仕方ないと諦めていたというのに、腹に付くほど自身を聳り立たせておきながら急くこともなく。
一年前の彼からは考え付かないほど、落ち着いた行為だった。ルルーシュの様子を窺いながら動き、理性を振り切るようなことはしない。中に出すようなこともしなければ、もう一度と次を求めてくることもない。
だが、最中の癖は、やはりそのままで――その事実が、ルルーシュの心をざわつかせた。挿れる直前に掠れた声で名前を呼ぶこと。奥まで入ったそのあとで、一度口付けてくること。限界が近くなったときに額を合わせてくること。
スザクが何を考えているのか、今のルルーシュにはわからない。機情の中でもスザクは多くを語らないようで、ロロも彼に関しての情報を持っていない。
彼は何故、ルルーシュに近付くだけではなく身体まで求めようとする? しかも、ただ求めるだけでなく、彼のやり方は……まるで、ルルーシュとの関係を、修復しようとしているかのような……。
(馬鹿げている)
何をするんだと撥ね付ければ忘れてしまったのかと首をかしげ、そんな事実はないと逃げようとすれば力づくでもいいんだけどと薄く笑みを浮かべながら抱きしめてきた。耳元で、僕は忘れていない、寂しかった、と囁かれたときは本気で悪寒がはしった。
どの口がそんなことを言うのか。一体どんな顔をしてそんな言葉を。
強く抱きしめられていたために顔は見えなかったが、おそらく無表情のままなのだろう。感情のこもらない言葉など寄越さなくていい。あんな茶番劇につき合わされるのなら、まだ憎しみのこもった目で見つめられ、怒気のこもった声で詰られたほうが何倍もマシだった。
(ああ、そうか)
ならばこれも復讐のひとつなのだろうか。それなら仕方ないと思う自分に笑いがこみ上げてくる。
どうするべきなのか迷った末、ルルーシュは彼を受け入れてしまった。それまでは、俺にはその気もなければそんな記憶もないと突っぱね続けていた。けれどいずれ彼は同意などなくても力で屈服させようとするだろうと予測していた。
それがナイト・オブ・セブンの――ブリタニアの白き死神のやり方だからだ。
たった一機で戦局をひっくり返すナイト・オブ・ラウンズの七番目。戦地に赴き、相手に優しそうな言葉を投げかけたあと、容赦なくナイトメアを破壊しつくす。それがブリタニアの白き死神ランスロット。慈悲のないその戦いぶりはブリタニアでは大きく賞賛され、未だ続くEU戦では領土争いに貢献し、いくつもの武勲をあげている。
そんな噂を聞いて、あいつが、と不思議に思ったのを覚えている。銃を向け合ったことを忘れた自分は、クラスメイトだった枢木スザクのことを『正義感のある優しい奴』と認識していた。だから、不思議だったのだ。あんなに優しい彼が、戦場で人を殺していることが。そしてその功績で、のし上っていこうとしているのが。
その切欠をつくったのが自分だなんて、すっかり忘れて。
(だから、当然だと思っていた)
スザクがそのやり方で、強引にルルーシュを抱こうとしても。けれど実際彼はルルーシュが許すまで待っていた。多少強気で近付かれた感はあるが、それでも力を振りかざしてルルーシュを傷つけるようなことはしなかった。
何故? 考えても分からない。
友達だから? いや、彼が自分を手に入れようとしていることを思えば、友達と言う定義はおかしい。
以前の関係がそうだったから? そんなはずがない。いまここにいるのはスザクとの関係を忘れてしまったただ人だ。スザクだってそれは気づいているはず。そもそも抱き合うような関係は、過去引き裂かれた互いへの執着と、通じ合えないもどかしさが生んだものだ。たった一年共に過ごしただけのクラスメイトとそんな関係になるものか。
ならば……ただ単純に性欲処理のためにルルーシュを抱くのか。わざわざ男を抱かなくても、ナイト・オブ・セブンともなれば言い寄ってくる女性などいくらでもいるだろうに。
力で押さえつけられるのだけは許せなかった。だからそうなる前に自分自身の意志で彼を受け入れた。ねじ伏せられたわけじゃない、これは対等な関係だと告げるように。
(スザクの心情など知らない。だが)
けれどおそらく。ルルーシュが今感じているものが正しいのだとしたら。
ルルーシュに向けられる視線も延ばされる腕も。
(……執着、だろう。それは)
身体が目当てなのか、ルルーシュの自由を奪うことが目的なのか、それとも抱くことによって記憶の綻びをみつけようとしているのか……彼の行動の根源はわからないけれど。
(ならば、俺もそうしよう。お前を、繋ぎとめてやる)
自分に。ルルーシュ・ランペルージに。
記憶の有無など関係なくなるように。……ロロにしたように、優しく攻略してあげようじゃないか。
機情の連中はヴィレッタとロロを除いた全員にギアスをかけてある。ヴィレッタのことは扇のおかげで解決した。ロロももう問題ない。残るは、スザクのみ――。
一番厄介な相手だが、攻略できればこれほど有力な駒はない。利用する。利用してやる。
スザクの持つ感情も欲望もその力もすべてまとめて。
……その先に、自分たちの新しい関係性がある。敵か味方か、白か黒か。真実か虚偽か。
そんな風に考えること自体が、もう、ルルーシュが彼を、
「ルルーシュ」
突然声をかけられて、ルルーシュははっと顔をあげた。反射的に少し身を引くと、隣の机に鞄を置いたスザクが僅かに目を細めた。
「おはよう」
「あ、……あぁ、おはよう。重役出勤だな」
「うん、ちょっと軍のほうでトラブルがあってね。総督のお出迎えの準備もあるし」
「……そう、か」
言葉を続けることなくルルーシュは目を伏せる。スザクにはこういう態度が有効だと知ってのことだ。
案の定スザクはそんなルルーシュに眉をひそめる。
「もしかして、具合悪い? ……昨日のせい、かな。ごめん」
「違う。大丈夫だ」
「あんまり顔色がよくない。辛かったら無理しないで言って。保健室まで連れて行くから」
「冗談だろ、保健室くらいひとりで行ける」
「君の場合は――」
スザクがふっと表情を改めた。心配そうな、優しさを表に出したそれから一変、鋭い眼光を宿す。
「付き添わないと、保健室に行くといいながら、どこか違うところへ行ってしまいそうだから」
ああ、そういうことか。ルルーシュは心の中でくすりと笑った。やはりスザクはルルーシュがゼロだと、記憶がすべて戻っているはずだと、疑い続けているのだ。
ルルーシュを抱こうとするのもその一環か。確かに、そういう関係になってしまえば共にいる時間は長くなるだろう。重要な作戦がある前日に抱き潰してしまえば当日ルルーシュが動けないと目論んでいる可能性もある。
そう考えておけば、迷いも消える。ルルーシュは静かに眦を伏せた。
「ひどい言われようだな」
「心当たりがあるだろ?」
「ないよ。まあ、あまり酷ければ保健室よりも自分の部屋に戻る方がいいけど」
「ああ、それもいいね」
くすりとスザクが笑った。唇を舐める仕草が彼の考えを物語る。
「…………しばらくは、したくない」
呟くと、スザクが無言で椅子に腰を下ろした。
「あちこち、痛いんだ。……ロロも不審がってる」
「ロロが?」
「変化に敏感なんだ、あいつ。弟には心配をかけたくないから……体調を崩すようなことは、避けたい」
「わかってる。無理強いはしないよ。その代わり、」
スザクが微笑んだ。
「今度、総督に会ってあげてくれないかな」
酷薄な笑みがそう告げる。その表情を見た瞬間、ルルーシュは屋上で口付けられたときのことを思い出した。あのときも彼は今のような表情でルルーシュを引き寄せていた。
そして、聞こえるか聞こえないかの、本当に微かな声で。
―――ルルーシュ……
彼が囁いた言葉が、今も脳裏から消えない。
―――落ちておいでよ……
その声が、ルルーシュの知る、ルルーシュが求めた少年の本心からの声だと感じただなんて。
(認めるものか……そんなことをしたら、)
身動きが取れなくなるとわかっているのに。
タイトル:「恋したくなるお題」さまより
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