2008'05.11.Sun
ロロのターン!!
一発書きですのであとで書き直したりするかもしれませんがとりあえず!ルルーシュがうそ臭い!(爆)
あ、そういえば、2と3を少し修正しました。誤字脱字を直したり、ちょこっと言葉を書き足したり。
今回、ロロルル描写ありますのでご注意ください。
一発書きですのであとで書き直したりするかもしれませんがとりあえず!ルルーシュがうそ臭い!(爆)
あ、そういえば、2と3を少し修正しました。誤字脱字を直したり、ちょこっと言葉を書き足したり。
今回、ロロルル描写ありますのでご注意ください。
*-*-*-*-*-*
『抱いたよ』
その言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
ロロの知識の中に、確かに同性同士の行為という題目のものはある。だが今まで一度たりともその項目を使用したことがなく、且つ耳にしたこともなかった。
淡々と紡がれる言葉は非常に不愉快で、同意の上での行為なのだから君には関係ないと言われているようで、一瞬にしてロロは沸点を突破した。
だが、そこで彼に手を出さなかったのは、兄であるルルーシュの言葉が、心の奥に残っていたからだ。
―――もう、そういうことはやめろ。
殺しますか、と聞いたロロに対してルルーシュが返した言葉。
人を殺すことに何も躊躇いなんてない。だがここでロロが枢木スザクを殺せば、何かしら綻びが出るだろう。一般調査員を殺すのと訳が違う。彼は帝国最強の騎士、ナイト・オブ・ラウンズの一人だ。
政庁にはナイト・オブ・スリー、ナイト・オブ・シックスの姿もあると聞いている。ロロは学園でルルーシュに張り付いているので直接会ったことはないが、衝動に任せて彼を殺害して、あとで皺寄せがきては面倒だった。
(それに……)
屋上へ続く階段を上りながら、ロロは携帯電話についたロケットを指先で撫でた。
あのとき行動に移さなかったのは、自分のためだけではない。
枢木スザクを殺すことで、ルルーシュがどうなるか、わからなかったからだ。
それは幾通りもの意味があった。ルルーシュがスザクに対し何を考えているのかロロには分からない。憎しみのこもった瞳で見ているかと思えば、昨夜のように部屋を訪問されるのを拒まないでいる。
記憶を失う前のルルーシュとスザクの関係は少しだけ聞いていた。幼馴染で友人で……敵。
今の彼らはどんな言葉で言い表せるのか。友人? 敵? それとも――。
屋上への扉を開き一歩踏み出すと、夕方の少し冷えた風がロロの頬を撫でた。見える位置には誰もいないことを確認し、更に上へと続く階段へと足を向ける。
そこに、黒髪を靡かせて階下を眺める人物を認め、ロロはふっと息を吐いた。
「兄さん」
生徒会室に行っても姿が見えないので、おそらくここだろうと思っていた。スザクは授業がすべて終わったあと地下へ一度顔を見せ、慌しく政庁へと戻って行った。数日ここを離れていたギルフォード卿から何か連絡が入ったらしい。おそらく新しい総督の関係だろう、とヴィレッタは呟いていた。
「ロロ。……どうした」
「生徒会室に行ったら姿がみえなかったから、たぶんここだろうと思って。定期連絡?」
「ああ。少し、急がなければならない案件があって」
「朝よりは顔色が戻ってる。よかった」
ロロが微笑むと、ルルーシュは首を竦める。
「疲れだったのかな。そういうお前は……どうしたんだ?」
「え?」
ルルーシュの手がロロの頬に伸びる。何だろうと見返すと、彼は困ったように笑った。
「笑えてないぞ。機情で何かあったか」
この人は変なところで鋭い。普段は人の気持ちにはてんで疎くて、そこに恋や愛なんて言葉がつけば尚更で。なのに知って欲しくないときだけ気付いて、こうして優しい言葉を投げてくる。
(聞いたら、答えてくれるんだろうか)
自分は彼の仮初の弟だ。血の繋がりなどないし、記憶が戻ってしまった今ではたった一年共に過ごした同居人のようなもの。兄と弟という肩書きはあれど、その間にある距離は果てしなく長い。
(ねえ、ルルーシュ。あなたは、どっちが、)
無意識と言ってよかった、かもしれない。
「兄さん」
頬に添えられた手をやんわりと掴んではずさせて、ロロは口を開いた。
直後、目を見開いて固まってしまう。
「? ロロ?」
訝しげに自分を呼ぶ声。
その唇から僅かに下、ボタンを外され肌蹴られた胸元。
そして、耳から下におりたラインの、首もと。
二箇所の、赤い、……。
「……っ」
思わず、ぎゅっと掴んだ手を握り締めた。ルルーシュが表情を歪ませたが、力を抜くことができなかった。
『抱いたよ。彼を』
落ち着いた、嘲りすら感じてしまうような低い声がよみがえる。
「兄さん……っ」
「何だよ。大丈夫か? どうしたんだ、本当に」
あいている手で頭を撫で、優しく肩を引き寄せてくれるこの人を。あの、男が。
「ロロ」
何だ、どうした。繰り返して、宥めるように胸に抱きこんでくれる腕はあたたかかった。
自分の感情が整理できず、ロロは小さく喘いだ。どうしたいのか、どうすればいいのか、こんなときの対処法は決まってひとつで、でも今はそれすらできない。
相手を殺してしまえばすべて終わる。解決する。戻れる。……でも、今は。
「殺したい」
「え?」
「枢木スザクを。殺しましょう」
「ロロ」
咎めるような声が耳朶を打つ。
「言っただろう。お前はもう、そういうことをするな」
「っ、でも、あいつは……!」
顔を上げる。兄の顔とはまた違う、ゼロに近い双眸が細められロロを見下ろしていた。
「学園外の担当をしている者ならまだしも、学園内に潜入している人間がいなくなるのは不審がられる。それがお前やヴィレッタの上の人間なら尚更。……どうした? 何かされたのか。あいつに」
言えるわけない。目の前のこの人を抱いたとそれが当然なのだと教えられたなどと。
「身勝手な奴だからな。自分の言いたいことだけ、したいことだけを人に押し付けて、自分は何も受け付けない」
そう穏やかに言えてしまうルルーシュに、ロロがどう思っているかなんてこの人は知らないだろう。
(奪われてしまう)
それは衝動だった。
(兄さんを、あの、男に)
手に入れた居場所を。
(まだ間に合う)
ルルーシュを殺して、ヴィレッタを殺せば、また戻れる。
あの何もない日々に。ただ人を殺して過ごす時間に。
(でも、僕は)
おそらくもう、『任務』だけでは、ルルーシュを殺せない――。
どうして殺したいなどと言う結論に達したのか、ルルーシュは聞かなかった。
もしかしたら何となく気付いていたのかもしれない。
「兄さん? いい?」
「ああ」
だから、もう就寝の時間だというのに自室を訪れたロロを、そのまま迎え入れてくれたのだろう。
この部屋は監視カメラはあれど盗聴器まではない。あれば昨夜の音声は記録に残ってしまったのだろう。それを想像した途端、どす黒い何かが腹のあたりに渦巻くのを感じた。
「何か飲むか? それとも、」
「兄さん」
言いかけたルルーシュを遮り、ロロは俯けていた顔を上げる。
「お願いが、あるんです」
「……お願い? 俺に?」
立ったままのルルーシュに近付き、髪を払うようにしながら首筋を撫でる。そこにある赤い印を指でなぞれば、ルルーシュははっと身体を強張らせた。
「ロロ、」
「何故拒まなかったの」
「……!」
ルルーシュは言葉を失っていた。ロロを信じられないような眼差しで見つめているだけだ。
「今朝みたいに、あんな酷い顔色になるくらいなのに、どうして」
だが、すっと目を細めると、ロロの手をそっと外し地を這うような声で問いかけてくる。
「あいつが言ったのか」
ロロは答えなかった。肯定も否定もしなかった。
ルルーシュが小さく舌打ちしたのを聞いて、ただ苦しくなっただけだ。腹の中のそれが、更に勢いを増しただけだった。
「お前がおかしかったのはこのせいか。……心配するな。これくらい、どうってことない。これで騙されてくれるなら、俺は」
「あの人だから?」
「……、ロロ?」
「相手があの人だからなんでしょう。だから耐えられる。だから殺せない。兄さんは、まだあの人のことが」
「ロロ」
また、低い声がロロを呼んだ。いつもの優しい兄の声ではない。ロロを制するそれは、ロロ・ランペルージの兄ではなくゼロのものだった。
「言っていいことと悪いことがある。――お前は俺の、お前に対する気持ちまで否定するのか」
「……どういう、意味ですか」
「わからないのか?」
呟いて、ルルーシュはロロの手を引いた。
強制的にベッドに座らせられ、ルルーシュが目の前に仁王立ちになる。怒っているのか。そう考えて、ロロは眉をひそめた。何故ルルーシュが怒るのか理解できないからだ。
「わかりません。……ただ、悔しい」
「悔しい?」
「枢木スザクは、嫌いだ」
はぁ、とルルーシュがため息をついた。
「……だから、殺そうと思ったのか」
いつの間にか口調はいつもの兄に戻っている。
馬鹿だな。そう呆れたように降ってきた声に、ロロは更に眉根を寄せる。
「いけませんか」
「いいとか悪いとかじゃない。もうやめろと、言っただろう。俺はお前に、これ以上そういうことをさせたくない」
「わかっています」
「だから、……」
更に何か言いかけて、ルルーシュは考えるように黙り込んだ。
仕方ないなとため息をつく様子。
「お前が嫌なら、あいつとの接触は極力避けるよ。でも、完全には無理だ。あいつは俺を疑っているし、どうにかして俺の化けの皮を剥がそうとしている。だから、気になるなら、お前が俺の傍にいてくれればいい」
「え……」
「教室内はどうにもならないが、クラブハウス内では有効だろう」
何なら訪ねてきたあいつを門前払いしてもいいぞ。
できるわけないとわかっているのに、ルルーシュはそう言って笑う。
(あぁ、)
ロロはぐっと腹に力を込めた。
(なんて残酷な、)
そんな程度で、あの男が止まるはずがないだろう。怯みもしないだろう。
(なんて甘美な……)
だってロロは、枢木スザクにとって脅威でも何でもない。
だから。
「……、ロロ?」
気付いたら、ルルーシュの腕を引いてベッドに押し倒していた。丸く見開かれた目を真上から見つめて、顔を歪める。
「あの人の痕を、消したい」
呟きの意味を悟ったルルーシュが、ロロ、と少し強めに自分を呼んだ。だが自由な腕はロロの身体を押しのけるようなことはしない。逆に、そっと頬を撫でられて、馬鹿だなと苦笑された。
「それで気が治まるのか? 逆にもっと悔しくなるんじゃないのか?」
酷い人だと思う。優しい声で、そんな風に言うなんて。
「だからやめろと? そう、言いますか」
「馬鹿。そうじゃない。……敬語やめろよ。他人みたいじゃないか」
他人でしょう。言いたい言葉を、ロロは呑み込んだ。
自分と彼は他人だ。血の繋がりはない。だから、こうなっても、別に不思議じゃない。
言い聞かせるように心の中で呟き、両目を閉じる。瞳の奥が熱かった。
「記録、……残っちゃうね」
熱いそれを抑え、再び目を開く。落とした言葉と共に軽く唇を触れ合わせると、ルルーシュが肩を竦めため息をついた。
「最悪だな」
「最悪だね」
だってきっと、この映像を彼は見るだろう。そしてロロのとった行動の意味を、ほぼ正しく理解するだろう。
「消しに行こうか」
「お前が疑われても困るんだがな……どうするかな」
「うん、そうだね。困るよね……」
本当にそれだけ?
やはり、そんなことは聞けない。
ただ、責められるのは彼じゃなくて自分だけでいい。そう思ったから、首筋のそれと鎖骨の下にあるその痕に唇を寄せ吸い上げて、ロロは顔を上げた。
「痕は、これだけ?」
「さあ」
「覚えてないの?」
「ああ」
じゃあ、今日はこれでいい。あとは、抱きしめて眠って。
そんな風に甘えてみせれば、彼は可笑しそうに口端を吊り上げた。
「子供だな」
うん。今はそれでいいよ。
子供だと思っていればいい。ただの我侭だと、甘えだと、そう思っていて。
「次も……あったら、また、消していい?」
そう告げれば、ルルーシュは困ったように微笑んだ。
その微笑と、引き寄せたルルーシュのあたたかい身体とを感じながらロロは目を閉じる。ぱちん、と部屋の明かりが落とされる音が響いた。
(殺したくないんだ)
殺意というのは、こんなところにも発生する。
(でも、奪われてしまうくらいなら)
そう思ったロロは、まだこの感情の名に気づいていなかった。
『抱いたよ』
その言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
ロロの知識の中に、確かに同性同士の行為という題目のものはある。だが今まで一度たりともその項目を使用したことがなく、且つ耳にしたこともなかった。
淡々と紡がれる言葉は非常に不愉快で、同意の上での行為なのだから君には関係ないと言われているようで、一瞬にしてロロは沸点を突破した。
だが、そこで彼に手を出さなかったのは、兄であるルルーシュの言葉が、心の奥に残っていたからだ。
―――もう、そういうことはやめろ。
殺しますか、と聞いたロロに対してルルーシュが返した言葉。
人を殺すことに何も躊躇いなんてない。だがここでロロが枢木スザクを殺せば、何かしら綻びが出るだろう。一般調査員を殺すのと訳が違う。彼は帝国最強の騎士、ナイト・オブ・ラウンズの一人だ。
政庁にはナイト・オブ・スリー、ナイト・オブ・シックスの姿もあると聞いている。ロロは学園でルルーシュに張り付いているので直接会ったことはないが、衝動に任せて彼を殺害して、あとで皺寄せがきては面倒だった。
(それに……)
屋上へ続く階段を上りながら、ロロは携帯電話についたロケットを指先で撫でた。
あのとき行動に移さなかったのは、自分のためだけではない。
枢木スザクを殺すことで、ルルーシュがどうなるか、わからなかったからだ。
それは幾通りもの意味があった。ルルーシュがスザクに対し何を考えているのかロロには分からない。憎しみのこもった瞳で見ているかと思えば、昨夜のように部屋を訪問されるのを拒まないでいる。
記憶を失う前のルルーシュとスザクの関係は少しだけ聞いていた。幼馴染で友人で……敵。
今の彼らはどんな言葉で言い表せるのか。友人? 敵? それとも――。
屋上への扉を開き一歩踏み出すと、夕方の少し冷えた風がロロの頬を撫でた。見える位置には誰もいないことを確認し、更に上へと続く階段へと足を向ける。
そこに、黒髪を靡かせて階下を眺める人物を認め、ロロはふっと息を吐いた。
「兄さん」
生徒会室に行っても姿が見えないので、おそらくここだろうと思っていた。スザクは授業がすべて終わったあと地下へ一度顔を見せ、慌しく政庁へと戻って行った。数日ここを離れていたギルフォード卿から何か連絡が入ったらしい。おそらく新しい総督の関係だろう、とヴィレッタは呟いていた。
「ロロ。……どうした」
「生徒会室に行ったら姿がみえなかったから、たぶんここだろうと思って。定期連絡?」
「ああ。少し、急がなければならない案件があって」
「朝よりは顔色が戻ってる。よかった」
ロロが微笑むと、ルルーシュは首を竦める。
「疲れだったのかな。そういうお前は……どうしたんだ?」
「え?」
ルルーシュの手がロロの頬に伸びる。何だろうと見返すと、彼は困ったように笑った。
「笑えてないぞ。機情で何かあったか」
この人は変なところで鋭い。普段は人の気持ちにはてんで疎くて、そこに恋や愛なんて言葉がつけば尚更で。なのに知って欲しくないときだけ気付いて、こうして優しい言葉を投げてくる。
(聞いたら、答えてくれるんだろうか)
自分は彼の仮初の弟だ。血の繋がりなどないし、記憶が戻ってしまった今ではたった一年共に過ごした同居人のようなもの。兄と弟という肩書きはあれど、その間にある距離は果てしなく長い。
(ねえ、ルルーシュ。あなたは、どっちが、)
無意識と言ってよかった、かもしれない。
「兄さん」
頬に添えられた手をやんわりと掴んではずさせて、ロロは口を開いた。
直後、目を見開いて固まってしまう。
「? ロロ?」
訝しげに自分を呼ぶ声。
その唇から僅かに下、ボタンを外され肌蹴られた胸元。
そして、耳から下におりたラインの、首もと。
二箇所の、赤い、……。
「……っ」
思わず、ぎゅっと掴んだ手を握り締めた。ルルーシュが表情を歪ませたが、力を抜くことができなかった。
『抱いたよ。彼を』
落ち着いた、嘲りすら感じてしまうような低い声がよみがえる。
「兄さん……っ」
「何だよ。大丈夫か? どうしたんだ、本当に」
あいている手で頭を撫で、優しく肩を引き寄せてくれるこの人を。あの、男が。
「ロロ」
何だ、どうした。繰り返して、宥めるように胸に抱きこんでくれる腕はあたたかかった。
自分の感情が整理できず、ロロは小さく喘いだ。どうしたいのか、どうすればいいのか、こんなときの対処法は決まってひとつで、でも今はそれすらできない。
相手を殺してしまえばすべて終わる。解決する。戻れる。……でも、今は。
「殺したい」
「え?」
「枢木スザクを。殺しましょう」
「ロロ」
咎めるような声が耳朶を打つ。
「言っただろう。お前はもう、そういうことをするな」
「っ、でも、あいつは……!」
顔を上げる。兄の顔とはまた違う、ゼロに近い双眸が細められロロを見下ろしていた。
「学園外の担当をしている者ならまだしも、学園内に潜入している人間がいなくなるのは不審がられる。それがお前やヴィレッタの上の人間なら尚更。……どうした? 何かされたのか。あいつに」
言えるわけない。目の前のこの人を抱いたとそれが当然なのだと教えられたなどと。
「身勝手な奴だからな。自分の言いたいことだけ、したいことだけを人に押し付けて、自分は何も受け付けない」
そう穏やかに言えてしまうルルーシュに、ロロがどう思っているかなんてこの人は知らないだろう。
(奪われてしまう)
それは衝動だった。
(兄さんを、あの、男に)
手に入れた居場所を。
(まだ間に合う)
ルルーシュを殺して、ヴィレッタを殺せば、また戻れる。
あの何もない日々に。ただ人を殺して過ごす時間に。
(でも、僕は)
おそらくもう、『任務』だけでは、ルルーシュを殺せない――。
どうして殺したいなどと言う結論に達したのか、ルルーシュは聞かなかった。
もしかしたら何となく気付いていたのかもしれない。
「兄さん? いい?」
「ああ」
だから、もう就寝の時間だというのに自室を訪れたロロを、そのまま迎え入れてくれたのだろう。
この部屋は監視カメラはあれど盗聴器まではない。あれば昨夜の音声は記録に残ってしまったのだろう。それを想像した途端、どす黒い何かが腹のあたりに渦巻くのを感じた。
「何か飲むか? それとも、」
「兄さん」
言いかけたルルーシュを遮り、ロロは俯けていた顔を上げる。
「お願いが、あるんです」
「……お願い? 俺に?」
立ったままのルルーシュに近付き、髪を払うようにしながら首筋を撫でる。そこにある赤い印を指でなぞれば、ルルーシュははっと身体を強張らせた。
「ロロ、」
「何故拒まなかったの」
「……!」
ルルーシュは言葉を失っていた。ロロを信じられないような眼差しで見つめているだけだ。
「今朝みたいに、あんな酷い顔色になるくらいなのに、どうして」
だが、すっと目を細めると、ロロの手をそっと外し地を這うような声で問いかけてくる。
「あいつが言ったのか」
ロロは答えなかった。肯定も否定もしなかった。
ルルーシュが小さく舌打ちしたのを聞いて、ただ苦しくなっただけだ。腹の中のそれが、更に勢いを増しただけだった。
「お前がおかしかったのはこのせいか。……心配するな。これくらい、どうってことない。これで騙されてくれるなら、俺は」
「あの人だから?」
「……、ロロ?」
「相手があの人だからなんでしょう。だから耐えられる。だから殺せない。兄さんは、まだあの人のことが」
「ロロ」
また、低い声がロロを呼んだ。いつもの優しい兄の声ではない。ロロを制するそれは、ロロ・ランペルージの兄ではなくゼロのものだった。
「言っていいことと悪いことがある。――お前は俺の、お前に対する気持ちまで否定するのか」
「……どういう、意味ですか」
「わからないのか?」
呟いて、ルルーシュはロロの手を引いた。
強制的にベッドに座らせられ、ルルーシュが目の前に仁王立ちになる。怒っているのか。そう考えて、ロロは眉をひそめた。何故ルルーシュが怒るのか理解できないからだ。
「わかりません。……ただ、悔しい」
「悔しい?」
「枢木スザクは、嫌いだ」
はぁ、とルルーシュがため息をついた。
「……だから、殺そうと思ったのか」
いつの間にか口調はいつもの兄に戻っている。
馬鹿だな。そう呆れたように降ってきた声に、ロロは更に眉根を寄せる。
「いけませんか」
「いいとか悪いとかじゃない。もうやめろと、言っただろう。俺はお前に、これ以上そういうことをさせたくない」
「わかっています」
「だから、……」
更に何か言いかけて、ルルーシュは考えるように黙り込んだ。
仕方ないなとため息をつく様子。
「お前が嫌なら、あいつとの接触は極力避けるよ。でも、完全には無理だ。あいつは俺を疑っているし、どうにかして俺の化けの皮を剥がそうとしている。だから、気になるなら、お前が俺の傍にいてくれればいい」
「え……」
「教室内はどうにもならないが、クラブハウス内では有効だろう」
何なら訪ねてきたあいつを門前払いしてもいいぞ。
できるわけないとわかっているのに、ルルーシュはそう言って笑う。
(あぁ、)
ロロはぐっと腹に力を込めた。
(なんて残酷な、)
そんな程度で、あの男が止まるはずがないだろう。怯みもしないだろう。
(なんて甘美な……)
だってロロは、枢木スザクにとって脅威でも何でもない。
だから。
「……、ロロ?」
気付いたら、ルルーシュの腕を引いてベッドに押し倒していた。丸く見開かれた目を真上から見つめて、顔を歪める。
「あの人の痕を、消したい」
呟きの意味を悟ったルルーシュが、ロロ、と少し強めに自分を呼んだ。だが自由な腕はロロの身体を押しのけるようなことはしない。逆に、そっと頬を撫でられて、馬鹿だなと苦笑された。
「それで気が治まるのか? 逆にもっと悔しくなるんじゃないのか?」
酷い人だと思う。優しい声で、そんな風に言うなんて。
「だからやめろと? そう、言いますか」
「馬鹿。そうじゃない。……敬語やめろよ。他人みたいじゃないか」
他人でしょう。言いたい言葉を、ロロは呑み込んだ。
自分と彼は他人だ。血の繋がりはない。だから、こうなっても、別に不思議じゃない。
言い聞かせるように心の中で呟き、両目を閉じる。瞳の奥が熱かった。
「記録、……残っちゃうね」
熱いそれを抑え、再び目を開く。落とした言葉と共に軽く唇を触れ合わせると、ルルーシュが肩を竦めため息をついた。
「最悪だな」
「最悪だね」
だってきっと、この映像を彼は見るだろう。そしてロロのとった行動の意味を、ほぼ正しく理解するだろう。
「消しに行こうか」
「お前が疑われても困るんだがな……どうするかな」
「うん、そうだね。困るよね……」
本当にそれだけ?
やはり、そんなことは聞けない。
ただ、責められるのは彼じゃなくて自分だけでいい。そう思ったから、首筋のそれと鎖骨の下にあるその痕に唇を寄せ吸い上げて、ロロは顔を上げた。
「痕は、これだけ?」
「さあ」
「覚えてないの?」
「ああ」
じゃあ、今日はこれでいい。あとは、抱きしめて眠って。
そんな風に甘えてみせれば、彼は可笑しそうに口端を吊り上げた。
「子供だな」
うん。今はそれでいいよ。
子供だと思っていればいい。ただの我侭だと、甘えだと、そう思っていて。
「次も……あったら、また、消していい?」
そう告げれば、ルルーシュは困ったように微笑んだ。
その微笑と、引き寄せたルルーシュのあたたかい身体とを感じながらロロは目を閉じる。ぱちん、と部屋の明かりが落とされる音が響いた。
(殺したくないんだ)
殺意というのは、こんなところにも発生する。
(でも、奪われてしまうくらいなら)
そう思ったロロは、まだこの感情の名に気づいていなかった。
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