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sakura*blog PMstyle

咲良の徒然気まま日記。 ゲームやらアニメやら漫画やらの感想考察などをつらつらと。 しばらくは、更新のお知らせなどもここで。

2024'05.19.Sun
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2007'01.20.Sat

 空港には、その日も多くの人が犇めき合っていた。
いつもとは少し違うタイトな黒い服に身を包んだアスランが、ちらりと腕の時計を見る。キラもぼんやりとめぐらせていた視線を、空港の大時計に向けた。
長い針と短い針が交差する。このご時勢にはめずらしい、アナログな時計だ。
「そろそろ?」
 キラが呟くと、アスランがそうだなと頷いた。
 ソファから立ち上がり、キラもアスランと同じほうを見る。ターミナルに人波が押し寄せ、まばゆい光が幾つも見えた。
「有名人だね……」
「今回は、な」
 アスランが溜息と共にそう言い、つかつかと歩き出した。キラはそのまま、その場所で彼の行動を見守ることにする。
 戦いが終わり、プラント最高評議会からの要請を保留にしたまま、ラクスがオーブに来てどれくらいの月日が経ったのだろう。それほど長い時間ではなかった。戦いのない世界で、優しく微笑む彼女を見ているのは、キラにとって大きな救いだった。
 それを今――アスランが向かった先の人物が、キラの元から連れ去ろうとしている。
「……なんて、ね」
 彼女を引き止める権利も、彼を責める権利も、キラにはないのだ。彼女ではなくアスランを選んでしまった時点で、そんなことはわかっていた。
 決めるのは彼女で、そして彼女がそれをやり通すサポートをしてやれるのは、今は彼しかいない。
 だから、彼にしてみれば、キラにこんな風に思われるのは納得がいかないだろうと思う。
 アスランが人波を掻き分け、何かを言いながら中へと進んでいく。途端にできる隙間に、やっと彼らの姿が見えた。いつものようにザフトの軍服を纏い、背筋を伸ばした姿。
 変わらないな、と思う。
 彼はいつでも、まっすぐだ。
「……あ、気付いたかな」
 ディアッカが片手を上げてきた。その隣のシホが頭を下げる。組み合わせていた腕をほどくとキラも手をあげ、軽く挨拶を交わす。記者たちがキラに気付いてその対象をこちらへと移して来た。
(そういえば……一応、カガリの代役なんだっけ)
「ディアッカ久しぶり」
「元気そうだなキラ」
「うん、そっちは相変わらず……みたいだね」
「ああ。今回のコレが済めば、少し変わるかもしれないけどな」
 ディアッカといくつか言葉を交わし、アスランと話をしている彼を見る。
「イザーク」
 呼びかけると、彼はふっと口端を吊り上げた。
「久しぶりだな。ヤマト准将殿」
「ええ。お変わりないようでなによりです。……ジュール隊長」
 お互いににっこりと笑みを浮かべ、記者サービスの握手をする。それが終わり記者たちの興味の対象が自分たちから離れると、キラはぷっと吹き出した。イザークも首をぐるりと回し、肩の力を抜く。
 おかしな役回りだ。本当に。
「今回は少し滞在できるの?」
「前回よりはな。色々準備もあるし……おまえらと話もしなければならん」
「話?」
 キラが眉をひそめると、イザークはちらりと視線を流してきた。
「ラクスのこと、納得していないんだろう、貴様は」
「……そんなことないよ。わかっていたことだ。最初から」
「それだけじゃない。アスランのことも、シン・アスカのこともある」
 キラはふとイザークを見つめた。
「まさか彼らも?」
「……睨むな」
「だって」
「連れて行くわけじゃない。ただ、可能性を提示してやるだけだ」
 イザークはキラを見て少し困ったように笑っていた。彼にしては珍しい表情。
 きっとアスランが見たら、驚いて固まってしまうに違いない。
「色々あって――俺も考えた」
「何を」
 アスランに促され、その場所から車へと場所を移す。キラの問いに彼は答えず、黒塗りの車に乗り込んでから、キラの方にひとつのケースを投げて寄越した。小さな……手のひらにおさまってしまうほどの物だ。何だと視線を返せば、そこにはいつもの不遜な笑み。
「プレゼントだ」
「なにこれ」
「見ればわかる。あとで見ろ」
 手のひらでそれを弄んで、ポケットにしまう。一体何なのだか、やたらと言葉の足りない彼に口を引き結ぶと、隣に座っていたアスランがキラの方に身を寄せてきた。
「?」
 耳元に唇を寄せられて、アスランからキラにしか聞こえない囁きが落とされる。
(ああ、それで……)
 思わず、キラは口許を覆って笑っていた。
 ……彼は随分、上層部と衝突したらしい。アスランの処遇、シンの処遇、ルナマリアやメイリンの処遇……そして、キラに関する事項の情報工作。
 その中でも、ラクスに関することはこれ以上ないほど時間を費やしたらしい。自分が彼女の傍につき、彼女を補佐できる立場になれるように。
 そうすれば。たとえ、キラが部外者でも。
「評議会へのLINEPASS、か……ありがとうイザーク」
 キラの呟きに、彼は顔を向けてはくれなかった。外を眺めるアイスブルーの双眸。だがその口許は、微かに綻んで見える。
 ラクスをよろしくね。
 そう続けて呟くと、やはり視線は外に向けたまま。
「言われなくてもそうする。俺たちが守る。心配は要らない」
「……うん、そうだね」
 ディアッカがそんなイザークの様子にこっそりと笑う。アスランも少し肩を震わせていて、……実はキラも少し込み上げてくるものがあった。うっかりすると噴き出してしまいそうだ。
 素直じゃないというかなんと言うか。
 彼がその周りの状態に気付くのは、それからかなり経ってから。キラはそれまで、緩んでしまう頬を宥めつつ、ポケットの中のケースを探っていた。




*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

『完全喪失』・『月降雪』の設定らしいです。

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2007'01.10.Wed
 気付いたら、シンのキラに対する態度が変わっていた。
「キラ、こっちの方がいいよ」
「あ、ありがとう」
 言葉遣いもずいぶんくだけて――今までは一定の距離を保っていたはずなのに、今ではシンの方がキラにくっついているようにも見える。
「シン、ついてる」
「え、どこっすか」
「そっちじゃない……ああほら、こっち」
 キラの方も満更でもないようで、終始笑顔で彼と接していて……挙句の果てには、アスランに『シンってかわいいよね』などと言い出す始末だ。シンがキラと仲良くなるのは非常にいいことで、アスランにとっても微笑ましく見えていた、の、だが。
「ちょっ、待っ、……あははははくすぐったいって!!」
「シーンー、動かないの!」
「だって無理……ッ」
 スキンシップが些か激しいのではないかと思うのだ。最近。
(…………)
 シンはアスランにも前のように素直に接するようになっていたし、戦いが終わったころから比べると格段に良い方向へと向かっている。喜ぶべきなのだ。けれど、こう……アスランにとっては彼らの仲の良さは何となく置いていかれたようで寂しい。ような気がする。
(……嫉妬なのか? これは)
 そうじゃないと思いたいが、……そうなのかもしれない。
「おーっす! ……って、あれ、アスラン」
「カガリ」
「何やってんだお前? キラは……、あ」
 キラとシンのじゃれ合いを見て、カガリがぷっと吹き出す。カガリの後ろからやってきたラクスも、彼らを見るとふふっと可笑しそうに笑った。
「なんだかあいつら、仔犬のじゃれあいみたいだなー」
「ええ。かわいいですわね」
 そう言って微笑む二人を見つめ、次いで再びキラとシンを見つめる。確かにと納得すると、何となくふうっと胸が軽くなった。
(仔犬、ね)
 思わずもわもわと黒と茶の仔犬がじゃれている様を想像してしまって、アスランはぷっと吹き出した。
「かわいいな」
「だろ?」
 カガリが微笑って手に提げた土産をアスラン意投げて寄越す。中からふわっと紅茶のいい香りがした。
「マーナがシフォンケーキ焼いてくれたんだ」
「今、お茶淹れますわね」
「ああ、ありがとう」
 ラクスとカガリに気付いた二人がじゃれあいをやめ、アスランの手の中のケーキに飛びつく。ああ本当に仔犬みたいだ、と――アスランはまた小さく笑った。  
     

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2007'01.10.Wed

 カツン、と硬質の音が響いた。
 薄暗い執務室。扉の開く微かな音が空気を震わせ、少しだけ光を取り込む。
「……失礼します」
 規則正しく響く音が、白いブーツから発される。ドアの先――部屋は無駄に広く、ドアからずいぶん先にデスクがひとつ据えられているだけだ――青白い画面を見つめ続けている人物がいる。
 一度止めた足を再び進めると、静かな部屋にまた硬い足音が響いた。
 掛けた声にも、この足音も、ドアの開く音も、もちろん人の気配にも気付かないわけがないのに、彼はじっと画面を見つめたまま動かない。
 自分以外の誰かなら、彼のこんな態度に腹を立てるだろう。そんなことを考えながら、シンは小さく息をついた。
「予定通り、1300にリヴェルトが港に入るそうです」
「……うん」
 今度は小さく答えが返る。
 と、同時に小さく彼の前髪が揺れて、手元が端末のキーを叩き出した。カタカタカタ、と規則正しい音が聞こえてくる。この人のキー操作は、シンの知る誰よりも早く、そして正確だ。
「乗客名簿の中に、俺の知っている名前があります」
「キミの?」
「ええ」
 事務的な口調に、彼がふと顔を上げた。端末の放つ光に照らされたその顔は、少し青白く見える。
 もともとそれほど血色のいい方ではないのだ、この人は。
「シンが知ってるって事は……ザフトの人間?」
 面白そうに目の前の上司が薄く笑う。
 彼やシンの纏った緋色の軍服は、ザフトのものと酷似していた。彼の、短めに誂えた軍服は機敏な動きを妨げないようできている。見た目はおっとりとやわらかい印象を受けるのに、彼はとても強い。
 シンでは太刀打ちできないほどに。
「……いえ」
「違うの?」
 シンの言葉に、彼が不思議そうに首を傾げた。
「ザフトじゃなければ、プラント国民?」
 口許には笑みを湛えたまま、彼の指先が再びキーの上を滑り始めた。
 その動作を見つめながら、シンはすっと目を細める。
 シンが言おうとしている名は、おそらく彼の禁忌だ。それを知っているから、本当は言いたくない。言ってしまったら、彼の弱さを目の当たりにしてしまうから。
 でも、知らせずにおくのは、危険すぎて。
「…………」
 無言のまま、一歩近づく。
 纏った軍服の裾が、膝に蹴られて揺れた。
「――……アレックス・ディノ」
「!」
 ふっ、……と。
 彼の動きが止まる。
「名簿にあった、俺が知ってる名です」
「……IDは?」
「IDはオーブのものでした」
「連れはいない?」
 彼の問いに、シンはわからない、と答えた。
 知っている名はそれだけだった。他にも偽名を使っている人物がいればわからないが、今のところシンが引っかかったのは一人だけだ。
「……シン」
「はい」
「彼だと思う?」
「…………」
 立ったままのシンの肩に、重みがかかる。
 ああ、ほら、と。シンは唇を噛み締めた。
「他にあんな名前使う人、いないと思いますけど」
 わざと突き放すように告げれば、肩口からそうだねと呟く声が聞こえた。
 何気なく、後ろを振り返る。
 部屋の扉はしっかりと閉まっている。上司の部屋にノックや挨拶なしで入ってくる輩もいないだろう。
 しばし逡巡した後、シンはひとつ息をついた。
「――キラ」
 普段は決して呼ばない彼のファーストネーム。
 戦後、有名になりすぎてしまったキラ・ヤマトの名を捨て、彼はキラ・ヒビキとしてこの巨大な宇宙ステーションの指導者になった。
「なに?」
「本当にあいつだったらどうするんだよ」
 先程までの口調は、指導者であるキラ・ヒビキに対するものだった。だがこれは、キラ・ヤマト――シンが初めて会った時の、柔らかな笑顔を向けていたあのキラに対するものだ。
「どうするって……、……うん、どうしよう」
「なんだよそれ」
 シンの呆れたような台詞に、キラが少し微笑う。
「オーブを出た時に、彼にはもう会わないって決めたんだ。だから、会わずにいられたらいいなとは思うけど」
「無理だろ」
「即答しないでよ。容赦ないなあ」
「あんたが招いた種だろ。外部から人を入れるの、俺は反対したからな」
「そうだけどさ」
 肩の重みが更に強くなって、シンは思わずキラの背に手を添えた。このまま倒れてしまうんじゃないか。そんな風に思ってしまったからだ。
「……なんで……来ちゃうのかな……」
 シンの腕に甘えるように、キラが額を肩から胸にうつす。
「探しに来たんだろ。あの人は、キラをそんな簡単に諦める人じゃない」
 アレックス・ディノと名乗る人が、シンの知っている彼ならば。
「そうかな……そうかもしれないね……」
 キラは残酷だ。
 こうしてシンに甘え、身を委ね、何もかも甘受してくれるというのに……シンの想いを知っていながら、心はまだあの人――アスラン・ザラのもとにある。
 だからシンも、キラにすべてを晒さない。求めない。
 今は、キラと対等に接することができるのは自分だけだ。その優越感だけでいい。
「でも僕は、彼を傷つけるから」
 今はもう、アスランはキラに触れることすら叶わない。
 持ち上げた指先で、やわらかい栗色の髪を撫でた。こうして、ただ髪を撫でる事ができるのも。今は、自分だけだ。
「……僕は、ずるいかな」
「最悪に」
 すぱっと返ったシンの言葉に、本当に容赦ないなぁ、とキラの苦笑する声が返る。
「キミのそういうところ、好きだよ」
 本当に、ずるいと思う。
 さり気ない言葉で、こうしてシンを繋ぎとめて。
「シン……もう少しだけ、こうしてていい?」
「好きにしろよ」
 その腕で、シンを抱きしめて離さない。
 心はずっと彼のもとにあるのに、目の前のキラはシンを求めている。
 彼はこれから、今まで関わってきたすべて人たちを裏切る行為をしようとしている。彼らの受け止め方次第では、世界は再び戦争の中に墜ちていくだろう。
 そうなったとき、彼の手足となって戦えるのは、自分だけだ。
「……戦うことになるのかな」
 アスランとも。
 言葉にはしなかったが、そういう意味だろうとはわかった。
 溜息をつくことで返答に変えると、キラは静かに腕を離し、身を引いた。
 紫色の瞳がシンを捉え、その指先がシンの前髪を梳いていく。慈しむような優しい視線に、シンは眉を寄せた。
 盲目的な想いではない。けれど、キラをひとりにすることはきっとできないだろうと思う。
 たとえアスランと戦うことになっても。
 今まで関わってきた、すべての人たちを敵に回したとしても。
「――すべて、終わらせる」
 キラの決意に、シンは微かな悲しみと共に頷いた。

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2007'01.10.Wed
「ディアッカ!!」
「……キラ」
「アスランは!?」
「……」
「さっき……爆発に巻き込まれて、僕、機体見失っちゃって……!」
「あいつ、は……」
「ディアッカが一番近くにいたはずなんだ! 何でまだ戻って来てないの!? 知ってるんだろ!?」
「キラ……落ち着けよ」
「だって……!」
「……あいつは、もう……」
「――え?」
「もう……」
「何だよ、嫌な言い方……それじゃ、まるで……」
「…………」
「っ、嘘だっ!!」
「キラ!!」
制止も聞かず待機室を飛び出すキラ。必死の形相に周りのクルーも声がかけられない。
「……キラ!」
後ろから腕を掴まれる。
「離せ……っ」
「どこ行くんだよ!?」
「……っ、アスランが……!」
口に出せなくて言葉に詰まる。キラの目から涙がひとつ、零れ落ちた。
「―――……俺が、何?」
「……え?」
振り向くと、キラの手を掴んでるのはアスラン、で。
「えええええ!? な、何でっ……キミ、さっきの爆発……っ」
「は? ……ああ。見事だったな。そのおかげですっ飛ばされた物を拾いに……って、キラ?」
「…………ディアッカ、には、それ」
「? 一番近くにいたから先に戻ってくれとは言ったが……」
「~~~ッ!」
「……で、なに泣いてるんだ、おまえは」
「ディアッカ~~~ァッ!!!(怒髪)」

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2007'01.10.Wed

 ――出会いは桜吹雪の中だった。

(とかなんとか……)
 そう言ってしまうとかっこよくドラマのような出会いだが、シンにとってはあまり思い出したくない出来事だった。
 この全寮制の高校を選んだのは親元を離れたかったからだし、自分の過去を知っている人間から離れたかったからだ。それなのにどうして、やっとこの生活にも慣れて、友達もできた頃になってアイツと再会しなければならないのだ。
「……ン」
 だいたい、何故アイツがこんな辺境の学校に来たりするんだ?
「シン」
 隣からヴィーノがシンのわき腹を突っついてくる。さっきから何だって言うんだ、そこは俺だって突っつかれたらくすぐった――
 パシンッ。
「いてっ」
 シンの脳天に軽い痛みがはしる。何だと睨み付ける様に見上げれば、そこにはにっこり笑顔をまとったセンセイがいた。
「シン・アスカ? 僕の授業はそんなにつまらないかな?」
「え、」
 一瞬言葉に詰まる。
「堂々と寝てくれるよりはマシかな? 何を考えてたのか知らないけど……」
 そうだ、アイツだけじゃない、アンタも俺の日常を壊してくれたんだ。どうしてくれるんだ。
「……ってシン? こら、また聞いてないだろう」
 ポカッ。
 丸められた教科書がシンの頭に落とされた。加減してくれているのだろう、あまり痛くない。
「えーと……すみません」
「素直でよろしい。さ、もう時間も残り少ないからさくさくいくよ」
 シンににっこり微笑むと、センセイはくるっと踵を返し壇上へと戻っていく。
「シン、よかったなー。あのセンセ、怒るとすっげ怖いらしいよ?」
「……知ってる」
 なんたって自分はその場面を目撃したのだ。
 口論から、殴り合い――そして。
(……ッ)
 脳裏によみがえった映像と音声にシンはかぁっと頬を染めた。
「なんだシン、思い出し笑い? やらしいなー」
 ヴィーノのからかいにも反応できない。うるさい、と先程のお返しに脇腹をくすぐってやる。
 あの日、あの時、あの場所で、彼らを見なければ。
 きっとシンの生活は安泰だったのに。

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2007'01.10.Wed

 うわっ、という悲鳴と供に、シンの背後で何かが転がり落ちた。
 シンの記憶が正しければ背後にあるのはごみ置き場で今日の燃えるごみがぎっしりと溜まっていて、三方は壁に囲まれており入り口は今シンが向かっている方向だけ。更には、その頭上には青空が広がっているだけ――なはずだっだ。
 だからどう考えても人の声にしか捉えられなかった『それ』を確かめたくなくて、なんで足を止めてしまったのかと後悔しながら、シンはそのまま振り向かずに一歩を踏み出した。
「ちょっ……ひどいな、普通は振り向くくらいしない?」
 ぱんぱん、とズボンでも払っているのか軽い音が響く。
「意識はしっかりこっち向いてるのに、頑固だねキミ」
 とりあえず普通の会話ができる『もの』だったらしい。
「ねえってば」
「うっせぇなっ!!」
 怒鳴り返し、睨み付けるように後ろを振り返り、シンはぎょっと上半身を引いた。
「油断しすぎ」
 口端を吊り上げ笑う『それ』は、シンの目の前に立っていた。あと数センチ、というほど傍に。
「嫌な予感には従ったほうが身のためだと思うよ?」
「……っせぇッ」
 掠れそうになる声を押し出し、瞬時に周りを見渡す。逃げ道は背後のみだ。
「キミ、いい素質を持ってる」
 つっと指先がシンの胸を指してくる。
「あんた、……っ!」
 その指先にトン、と胸元を押された途端、シンはぐらりと眩暈を起こし膝をついた。
「ちょっと感性が強すぎるけど……彼が欲しがる理由がよくわかるな」
「な……っに……」
 目の前に立つ『それ』は、シンの目には背に大きな黒い翼を持った人外のものに見えた。羽音は聞こえないが、時々その黒い翼が動き、羽が散る。
 眩暈はそれのせいだ。強い瘴気にあてられている。羽からぼんやりとたつ、黒いオーラ、が……。
「あ」
 小さな呟きが聞こえてふと眉をひそめると、不意にシンの眩暈が軽くなった。
「キラ」
 そして、もうひとつ――シンの前に影が舞い降りる。
「……!」
 胸を押さえたまま、シンは目を見開いた。
「……接触するのはやめろと言っただろう」
「だって落ちちゃったんだよ。不可抗力」
「おまえな、……いや、小言は後だ」
 アスラン。
 シンは唇を噛み締めると数歩後退した。
 シンの様子にただ眉をくもらせ、アスランがひとつため息をつく。
「……悪かったな。危害を加えるつもりじゃないんだ」
「アンタ、まだこんなとこにいたのかよ」
「色々事情があって」
「そっちの事情なんか知らない!俺を巻き込むなよ!」
「ああ……悪かった」
 アスランの表情は変わらない。怒りも、悲しみも、何も窺えない。
「黙って聞いてれば……アスランがここにいるのは誰のためだと思っ」
「キラ!!」
 アスランに遮られ、『キラ』が口を噤む。
 アスランとは違い、こっちは表情がくるくる変わる。アスランの背後で腕を組みこちらを見つめる瞳は、紫。その紫が何故かシンを憐れむように見つめていて。
「……ッ」
 勢い良く立ち上がると、シンはザッと地を蹴った。

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