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sakura*blog PMstyle

咲良の徒然気まま日記。 ゲームやらアニメやら漫画やらの感想考察などをつらつらと。 しばらくは、更新のお知らせなどもここで。

2024'05.19.Sun
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2007'04.04.Wed
 たとえばこれが初恋だといったら、……キミは信じるだろうか。


 仕事が忙しくなると、アスランとすれ違う日が多くなってくる。
 個人個人の仕事が多くなるというのは、自分たちが二人一括りではなく、『キラ・ヤマト』、『アスラン・ザラ』として扱ってもらえている証拠だ。
 今まではどうしてもユニットとしてしか捉えてもらえなかったから、そう考えればすごく喜ばしいことなのだろう。
「でも、さ」
 ぽつりと呟いて、目の前のテーブルに突っ伏する。
 とあるスタジオの控え室。マネージャーは先程出て行ってしまって、今はキラしかいない。
 誰もいなくなると静寂が訪れて、途端に寂しい気持ちになる。アスランと一緒なら他愛のない話をして……いや、たとえお互いに黙って別々のことをしていても、ただ傍にいるそれだけで安心するのに。
(髪、伸びたな……)
 アレンジしやすいからと、スタイリストに言われてなんとなく伸ばしていた髪は、キラの頬にかかって表情を隠せるほどに長くなっていた。視界が隠されたその状態で、瞳を閉じる。
 真っ暗なその世界に浮かんでくるのは、やっぱりどうしたって、彼のことだけだ。
(好きって……難しいよね)
 これまで知らなかった気持ちが、キラの中にある。
 今までだって一緒に仕事ができないと寂しかったりしたけれど、今の想いとは少し違う気がする。
 ただ無性に声が聞きたくて、顔が見たくて。離れている間に彼が何をしているのかが気になる、こんな気持ちは今までなかった。
 信用しているのに、彼が誰かと――女の子たちと一緒にいるのが気になる。親密そうに話していれば、何の話だか聞きたくなる。彼の携帯が鳴るたびに、誰からだか気になる。
 毎日毎日、気になることだらけだ。
 それでも、今みたいに忙しくない時は朝も夜も一緒にいて、そんな気持ちは形を潜めていたのだけれど。
「あーあ」
(人を好きになるって、こんなに大変なんだ)
 世間体と、仕事と、記者と。戦うものが多すぎる。
 これまでに自分が『恋』だと思ってきたものとは違う今の状況。自分が思っていた『恋』は、ただの憧れに過ぎなかったのかもしれない。
(これが初恋だって言ったら、アスラン信じるかなぁ……)


*-*-*-*-*-*-*


中途半端ですがアイドルアスキラ~。
悩んでるキラってかわいいよね!(え)

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2007'03.29.Thu
 『おはよう』と『おやすみ』、それからその間の二人だけの時間。
 決まったようにキラと唇を合わせるようになって、気付いてしまったことがある。
「? なに?」
「……いや、べつに」
 ソファに懐きながらテレビを見ている彼に曖昧な答えを返すと、キラの瞳が自分に固定されて動かなくなった。じいっと見つめられる、それはキラの誘いだ。
 小さく笑い、顔を寄せる。
 ただ触れ合わせただけのキスは、それだけで身体の芯に熱を生み出す。
 それが何なのか、アスランは気付き始めていた。
「アスラン、甘い香りがする」
「え?」
「なんだろう、……」
 くん、と犬のように鼻を鳴らして、キラがもう一度顔を近づけてきた。
 そのまま、再び唇を重ねかけて、アスランは動きを止めた。
「キラ」
「ん?」
「少し……くち、あけて」
 え? とキラが目を瞬かせる。わかっていないのか、それともとぼけているのか。
 キラといると、つい癖で口うるさい幼馴染になってしまって、こんな関係になってからもそれはあまり変わらなくて――ただ、口だけで言う挨拶に軽いキスが加わった、ただそれだけで。
 けれど、今のこの状態で、自分は満足できずにいる。
「……っ」
 キラが息を呑む。アスランの腕に添えられていた手に、ぎゅっと力がこもった。
 中心に絡まる熱が更に上昇して、鼓動も早くなる。じわじわと競りあがる衝動。
 それが、何なのか。
 自分は気付いてしまった。
「ん、……」
 ちゅ、と最後に上唇を吸い、キラを解放する。
 潤んだ瞳に、上気した頬。無防備に自分を見つめる、キラの姿が目の前にある。
 アスランは一瞬呼吸を止めた。
 どきっと跳ねた己の心臓と、むくむくと沸きあがってきた欲望。
(――確定)
 やはりそうかと、正直な自分の身体に肩を落としたくなる。自分とキラの間にソファがあってよかったと、そんなことを考えて更にがっくりした。
 内心でそんなことを考えつつ、真っ赤なまま固まっているキラの頭を撫でて、目線を合わせるために屈みこむ。半分は、もちろん、……情けないが、隠匿のためだ。
「キラ?」
 いきなりすぎたか。少しだけ心配になり、顔を覗き込むと、キラの目がぱちぱちと何度も瞬きして、そして。
「あ、わかった」
 そんな風に呟いた。
「なにが?」
「この香り。僕が買っておいたさくらんぼ紅茶飲んだでしょ」
「あ。ああ、そういえば」
「そっか、だからか」
 謎が解けてにこにこと笑顔になったキラにほっとする。
(というか、本当に、こいつは)
 天然なのか計算なのかわからない。……と言いたいところだが、長年の付き合いで天然だとわかってしまっている自分が恨めしい。
 この様子では、どんなにアスランがそれらしい行動をしても、キラには伝わらない気がするのだ。
(知らないなら、知らなくていいんだけどね)
 知らないからこそ、きっとキラは『色気』のテーマを嫌がるのだ。逃げ回って逃げ回って、引き受けたとしてもまだまだまだという感じだ。そんな現状だからこそ、知ってしまったらと考えると、少し怖い。
「アスラン、あのさ」
 立ち上がろうとしたアスランを引き止めるように、キラがソファから身を乗り出す。
「もしかして紅茶? キラも欲しい?」
「あ、うん、欲しい。ってそうじゃなくて」
「なに?」
 唇を湿らせるように舐めてから、キラが口を開いた。
「好きだよ」
「―――」
 不意打ちだった。
 ひょいっと足元を掬われたような気がする。
 まったく、もう、本当に。
「……俺もだよ」
 微笑みながらそう返すと、キラは嬉しそうに笑って、くるりとアスランに背を向けた。



*-*-*-*-*-*-*-*-*


時間が戻ってます。無配の前のお話。なんとなく、キラに振り回されてるアスランが書きたくて(笑)

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2007'02.26.Mon

『プラントに行こうと思う』
 キラがそう言ったとき、彼は何も言わずただ強く抱きしめてくれた。……それが、嬉しかった。


     *   *


 ばたばたと自室へ戻ると、キラは洗面所に備え付けてあるシャワーから水を出して、そこへ頭を突き出した。温度調節も何もしていない、ただの冷たい水。
耳元で水の弾ける音がする。きつく目を閉じ、思考を空っぽにして――そのままじっと脳が冷えてゆくのを待って。
「…………」
ゆっくりと、キラは顔を上げた。
 洗面台の縁に手をつき、鏡に映る濡れた顔を見つめる。そこに映っていたのは、数分前とは違うすっきりとした自分の顔だった。
(……よし、大丈夫)
 ふうっと息を吐き、棚からタオルを取り出す。足早に洗面所から抜け出して、水滴の残る髪をタオルで拭きながら、椅子に放ってあった上着を取った。まだ馴染まないその質感に目を細め、タオルをテーブルに置くとゆっくり右、左と腕を通す。
 髪を手櫛で数回かきあげ、自然乾燥でいいだろうとベルトを締めながらその場から踵を返し、扉の開閉ボタンを押す、と――。
「あ」
 赤い瞳が目の前にあって驚いた。
「あ、じゃない。いつまで待たせるつもりだよ」
 目の前の壁にもたれていたシンが憮然とそう言う。
「ごめん。別に、先に行っててくれてよかったのに」
 そういえば、待ってるからなと部屋に入る前に言われたかもしれない。あのときはとにかく早く頭を冷やしたくて、ああとかうんとか、……確かに肯定を返した気がする。
「キラを一人にしたら俺が怒られる」
「誰に」
「……決まってんだろ」
 キラの問いに彼は眉をひそめた。分かりきったことを問うなと言いたそうな顔だ。
「うん……ごめん。ありがとう、シン」
 今キラが今纏っているのは、着慣れたオーブの青い軍服ではなく、ザフトの白い軍服だった。
 戦いが終わった後、キラはアスランとシンとオーブでしばらく過ごした。その間にプラントもオーブも、世界全てが目まぐるしく変化し、穏やかな生活を送っている自分がまるで絵空事のように感じられていた。
 あのときと同じだ、と思ったのだ。戦いから逃げて、変わる情勢を知りたくなくて、孤島の幸せな場所にとどまっていたあのときと。
 だから今度は動きたいと思った。知りたいと思った。……すべてを。
「だいたい、いきなりザフトで白服ってのが間違ってる」
 キラの横を歩くシンは先程からふてくされたままだ。ちらりとその横顔を窺い、ふくらんでいるように見えるその頬をつつきたい衝動に駆られる。だがさすがに実行するのはやめておいた。これ以上怒らせてもいいことは何もない。
「だから奴らがキラを目の敵にするんだ」
「でも……たとえ僕が緑だとしても、黒だとしても、見る目は変わらないと思うよ」
「そりゃそうだけど! って何で俺ばっか怒ってんだよ!」
「それは、シンが怒りっぽいから」
「キラが怒らなさ過ぎる!」
 イライラとシンが足を踏み鳴らした。
「怒っても仕方ないじゃない。怒ったって何も変わらないでしょ。……だから、そういうのも、これから徐々に変える。自分の力で」
 静かに返した言葉に、そっぽを向いたまま歩いていたシンがやっとキラを見た。
「……俺、たまにキラのそういうとこ、おかしいんじゃないかって思う」
「なんで?」
「考え方が前向きすぎる」
「いいことだと思うけどな、前向き」
「そうだけどさ……。あああ……俺、あの人の苦労がだんだんわかってきた……」
 何故かげんなりとシンがそう呟いて、額に手を置くとこれ見よがしに盛大な溜息をついた。
 シンが言う『あの人』と似た仕草に少し笑って、キラはそっと瞳を伏せる。
 こうすると決めたときから、色々なことは覚悟の上だった。キラのザフト入りは評議会に出入りする高官たちが決めたものだったし、白服はラクスの一存で決まったようなものだ。もちろんそれはキラの功績と実力、そしてこれからの立場を考えて上層部が納得した上でのものだったけれど、誰もが皆それに納得するわけではない。
 だから、先程のようにそれを快く思わない者たちがいても仕方ないのだ。
『いい気になるなよ……!』
 キラより年上の、緑の兵士だった。
 何がどうして、どんなきっかけで口論になったのだかは覚えていない。当たり前のことを返したら相手が激昂した、としか。
「あ、キラ、あっち」
 考えに沈んで、自然と足並みが亀のようになってしまったキラを引っ張るようにしながら、シンが先へと進んでいく。昼食の時間だからと連れてこられた食堂だったが、あまり食欲はなかった。
 だが、シンが目指している先に見知った金と銀が見えてはっとする。
(なんでこんなところに?)
 彼らの部隊はキラとは別のところに赴いているはずだ。移動は容易だろうが、でも、わざわざここまで来るなんて。……何かあったのだろうか。
 そう考えて、思わず自分を引いて歩いて行くシンを見つめる。もしかしたら、キラが自室に篭っている隙に、シンが? 真っ直ぐに彼らを目指すシンの背中。
(心配性だな)
 本当に、こっちに来てからのシンは彼に似てきている。苦笑して、ふと翡翠の持ち主に思いを馳せた。
(アスラン……)
 まだそれほどの日数は経っていないけれど、会いたいな、と思うときはある。
キラの決意に彼は異を唱えはしなかった。ただ驚いた顔をして、……それから迷いを見せた。
 ずっとわかっていたのだ。ラクスとカガリが宇宙と地球に分かれたときから、自分たちもどちらかに分かれなくてはならないと漠然と感じていた。ただ、その決心がつかなくて――共にいる時間が心地よすぎて、為すべきことを見て見ぬフリをしていただけ。
「キラ! シン!」
 ディアッカがこちらに気付いて片手を上げ、イザークが振り返る。キラの手前でシンがぺこりと頭を下げた。


「派手にやったらしいな」
「うん……」
 食事が終わって、テーブルには4人分のコーヒーが置かれていた。キラとイザークの白服は嫌でも注意を引くらしく、あちこちから視線を感じた。イザークやディアッカはもう慣れっこなのだろう。ディアッカに至っては、そんな視線にひらひらと手を振る余裕まであるようだ。
「派手に、というか……ちょっと、人目がありすぎた、かな」
 イザークの言葉をそう訂正して、キラはカップに手を掛ける。
 実際、大喧嘩だとか乱闘だとか、そういうことではなかったのだ。
「いきなり胸倉掴んで、裏切り者のくせに、とかって……何もなくたってキラのことが気に入らないんですよあいつら!」
「シン、声が大きい」
 キラが諌めると、シンが口を噤む。シンの頭をぐりぐりと撫でまわし、ディアッカが大仰に溜息をついた。
「俺たちだって同じだぜ? イザークはともかく、特に俺。出戻りっつーだけで快く思わない奴は多いもんだ」
 ディアッカが? 思いもしなかったことを告げられ、キラは顔をしかめた。もともとザフトの彼でさえそうだとしたら……フリーダムのパイロットだと知られてしまっている自分は、確かに攻撃の対象になりやすい。
(……罪だ)
 キラが、今まで奪ってきた命。背負って生きていくしかない、その罪。
「頭の固い連中が多すぎるんだ、どこもかしこも! 御託ばかり並べて何の役にも立たんくせに!」
 イザークが強く吐き捨てた。
「でも、俺たちはここにいる。そうやって、誰かに蔑まれてもさ」
 ディアッカの言葉に、はっと顔を上げる。
「ま、だから気にすんなってこと。キラにはこいつがついてるみたいだし、イザークよりは迫力ねぇけどいい護衛だと思うぜ?」
「それはどういう意味だ!」
「うわっ!」
 イザークが吠えた瞬間、シンがディアッカに首を引き寄せられてじたばたともがいた。
かわいがられているようにも見えなくないが、イザークとの楯にされている……ような?
「……ぷっ」
 思わず吹き出すと、牙をむいていたイザークが何かを言いかけたその口のまま、じろりとキラを見た。かちりと視線が合う。
「あ、いや」
 笑った言い訳を探していると、イザークはそのままキラに拳を突き出してきた。意味もわからずそれを手のひらで受け止める。
「溜まっていることは吐き出せ。俺でもこいつらでもいい。当然あいつでも」
「え?」
 あいつ、というのは……もしかしてアスランだろうか。キラが首を傾げると、イザークが拳をぐいっと押してきた。
「お前が連絡しないとうるさいんだあいつが! 連絡しとけ! 今すぐ!」
「は? ええ?」
 どんな話でそうなる? 今の話題から何がどうなって。
 キラが目を瞬かせていると、ディアッカがあっはっはと笑い出した。
「俺たちが今日ここに来た理由はそれ。もーホントうるさくてさあ。ってことで、心配性の誰かさんによろしく」
「……はぁ」
 話が上手く呑み込めず気の抜けた返事をする。何だか良くわからないが、アスランに連絡を取ればいいらしい。
(そういえば)
 プラントに一緒に来て、彼がオーブへと戻って――それから一度も連絡を取っていなかった。
 姿を見ても触れられないのは寂しいからと、妙な理由で遠ざけていたけれど。
「うん。今すぐは無理だけど……今夜、してみる」
 キラが微笑ってそう言うと、何故か3人ともほっとしたような表情になった。


     *   *


「――プラントに、行こうと思う」
 キラがそう告げたとき、彼は静かに振り向き眉を寄せた。
「キミがいた、ザフトという組織のことが知りたいんだ。今までみたいに一方のことだけしか知らないんじゃなくて、両方のことを見て、知って、……もっと強くなりたい」
「……キラ」
「プラントに打診はしていないけど、でも」
「キラ」
 言葉を続けようとしたキラに腕が伸ばされ、ぎゅっと抱きしめられる。腕の強さが、彼の痛みを……想いを、表しているようだった。
 ラクスが宇宙に上がり、カガリが本格的にオーブ代表として動き始めた。それを補佐する立場にある自分たちも、今後のことを考えなくてはならなかった。
 アスランと、シンと。ただ穏やかな生活を続けているだけではいけないと、ずっと思っていたことだ。
 ただ抱きしめているだけで、アスランは何も言わなかった。
 先日のプラント訪問で彼が何を得てきたのか、キラは詳しく知らない。だがおそらく、復隊を求められているのだろうと思っていた。それはシンに関しても同じだ。
 けれど、アスランがそれを渋っているのも知っていた。その理由が何かまでは、キラにはわからなかったけれど。
 だから、という訳ではないけれど、キラはプラントに上がろうと思った。自由という名の翼をもがれるのが嫌で、自分はずっと同じ位置からしか物事を見ていなかった。後悔している訳ではないが、もっと広い視野を持ちたいと思っていた。
「シンが、ついていくって言うな」
 いつもより低めのアスランの声。キラの大好きな。
「そうかな?」
「あいつはキラに懐いてる」
 小さく笑ったアスランが、肩口から唇を移動させ……そっとキラに口付けた。
「……短かったな」
「うん……でも、長かったような気もする」
 戦闘がなくなって、MSに乗らなくなって、共に過ごした時間。

自分たちは再び、違う戦場へ赴かなければならない。いつか、完全なる平和をと願って。
 何度も確かめるように唇を合わせ、合間に目を合わせて微笑む。
 離れても大丈夫。今は何の迷いもなくそう言える。
 まだ、戦いは終わっていないのだ。

 ……ゆるやかに、世界は動き出していた。

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2007'02.04.Sun
 その日、アスランが帰宅したのは、日付が変わって短針がもう一周してしまった後だった。
 タクシーから降りて、ふと自分たちの部屋の明かりを見上げる。
 こんな時間だというのにリビングには明かりがついているようだ。いつもなら先に布団に入ってしまうはずなのに、どうしたのだろう。
(……あ)
 そういえば、昼間キラから何度もメールが来ていた。
 今日の予定をしつこいくらい確認してきて、できれば早く帰ってきて、とも言われた。だが予定は変更がきかないものだったし、無理だよと宥めておいたのだが。
 夜も何度かメールがあって、ここに帰ってくる少し前には携帯が鳴ってワンコールで切れた。
(何か、あったのかな)
 エレベーターのボタンを押し扉ガ閉まる。上昇するエレベーターの中で、アスランは眉をひそめた。
 自分もそうだが、キラは他人の評価や態度に敏感だ。何かあっては生き抜いていけないこの世界だからこそのことだ。
 だが過敏になりすぎて、立ち直るのに時間がかかるときがある。そういうときは、お互いに寄りかかって支えあって、そうしてまた元の『自分』に戻る。
(今日……キラの予定って何だったかな)
 ほとんど把握しているものの、細かい取材や小さな仕事のことまでは頭に入りきっていない。今日のキラは変則的なCM撮影で、空き時間が長い……といっていたような。
「ただいま」
 玄関の扉を開け、声をかけてみる。中はしんとしていて、テレビの音も聞こえない。
 おや、と首をかしげて靴を脱ぎ、リビングに足を運んで。
「キラ?」
 ソファからはみ出している茶色い髪に気付いて呼びかけてみる。
 返事がなく、まさかと思いながら前へ回り込むと――彼はソファに寄りかかった姿勢でくぅくぅと寝息を立てていた。
「こら。こんなところで寝るなよ。……キラ」
 幾分強めに呼びかけるが、起きる気配なし。
 ったく、と溜息をついて、邪魔な上着を脱ぎ捨てるとアスランはキラの部屋の扉を開いた。あのまま寝かせては疲れがとれないだろうから、ベッドまで運んでやるのだ。
 ドアを開け、ベッドの布団を寝かせやすいように捲って、再度ソファに戻る途中。
「……?」
 いつもはそこにないモノに気付いて足を止めた。
 白い箱だ。
 ダイニングのテーブルの上に、四角い箱が乗っている。
 何かもらってきたのかと、ナマモノじゃないだろうな、などと考えながら何気なく手を伸ばし、ふたを取って――。
「っ……」
 アスランは息を呑んでしまっていた。
 中に入っていたのは、白くて丸い、小さなホールケーキ。
 アスランの好きなフルーツがたくさん乗った、バースデーケーキだ。
 すっかり頭から抜けていた。日付が変わったら、もう29日――アスランの誕生日だったのだ。
(だから、か?)
 早く帰ってきてと言ったキラの言葉の意味に今更ながらに気付き、アスランは困ったように眉を下げた。
 日付が変わったら、真っ先に、誰よりも先に、一番に、おめでとうと言いたい。
 少し前に関係の変わった自分たちの、初の記念日だった。だから、とキラはそう言っていた。
 なのに。
「ごめん……」

 寝息を立てるキラの前に跪き、呟いてみる。
 キラはきっと、自分の帰りを待っていてくれた。
 と、そのとき。
 携帯が小さく震えて、メールの着信を知らせた。こんな時間になんだろうと見てみると、差出人は目の前の彼だった。
 よく見れば、時間はもっと前……日付が変わった直後のものだ。
 何らかの原因でメールの到着が遅れたらしい。役立たずと携帯に向かって悪態をつき、メールを開く。
「……ぷ」
 画面に映る、おめでとうの文字。
 少しだけの愚痴と、少しだけの文句。
 そして。
「明日の朝はキスで起こして、……か」
 少しだけの、甘えた言葉。
「了解」
 キラの寝顔に呟いて、彼を抱き上げ部屋へ運ぶ。
 誕生日が嬉しいと思ったのは、この世界に入って初めてかもしれない。
 アスランは思わず口許が緩むのを止められずにいた。

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2007'01.27.Sat

 トコトコトコ。
 キラが歩くと、その頭上を大きな影がふわふわふわとついて来る。
「……」
 ぴたり。足を止めると、その影も止まる。
 一歩踏み出せば、またふわりと気配が近づいて。
「……すっごく気になるんだけど」
「何が?」
 キラが呟くと、その影から答えが返った。予鈴が鳴る。のたのた歩いていたキラははっと顔を上げ、足を速めた。少しのんびりしすぎてしまったらしい。
「ふわふわ視界に入ってくると気になっちゃうんだってば」
「ああ、俺が? なら降りようか」
 ストン。早足で歩くキラの少し先に、白い翼を折りたたんだ一人の青年が降り立った。すらりとした肢体は翼とは対照的な黒い布で覆われていた。光を受けて光っているように見えるのは、キラの目の錯覚だろうか。
「いや、そういう意味じゃなくて――って、ヤバイ、遅刻する!」
 思わず立ち止まりそうになってしまったキラを、目の前の壁に取り付けられた時計が脅かすように長針を動かした。
 遅刻して目立つのは避けたい。その一心でキラは急ぎ足で教室に飛び込んだ。きょろきょろと見回すと、後ろの方の席でサイが手を振ってくれている。
「久しぶりだなー、キラ! よく来たなー!」
「うわっ」
 サイの隣にいたトールが立ち上がり、キラの髪をぐしゃぐしゃと撫で回してくる。
「もう、ほんと、もうしばらく待っても来なかったらおまえんちに乗り込もうかと思ってて」
「はあっ?」
「本当に行きそうだったよ。この間俺がキラを見つけたって言ったら、すぐ行こうさあ行こうって」
「愛だよ、愛! キラに会いたかったの!」
「愛ねぇ? あ、ミリアリアに言ってやろう」
「うっわ、アーガイルくんてばそういうことするんだ? サイテー」
 いつも以上に明るい彼らに笑って、席に着く。ありがとうと告げると、二人も笑顔を向けてくれた。
 しばらくぶりの講義は全然内容がわからなかった。これは駄目だと、隣にいたサイの今までのノートを写すことに集中していると。
「……よかったな」
 横――サイたちとは反対側だ――から、不意に声がかかる。
 ちらりと隣を窺うと、そこには先ほどの青年が当たり前のように座っていて。そして微笑みながらキラを見ていた。
「キラには、大切なものがたくさんある」
 カリカリ……。彼の言葉を聴きながら、ペンを動かす。
「キラを必要としてくれる人がいる」
 コトン。思わず、キラはペンを置いた。
 今度はしっかりと、隣を見る。頬杖をついて、生徒の一人のようにそこに存在している彼。
 口を開きかけて、今が講義中なのだと思い出し、首を軽く横に振ると再び前を向く。
(違うよ)
 心の中でそう答え返した。キラを必要としてくれる……いてほしいと思う人は確かにいるだろう。でも、彼らは皆キラより大事な人がいる。家族がいる。恋人がいる。
 キラがほしいのは、彼らが持っている『大事な人』。キラを誰よりも必要としてくれる人。キラが生きる、その導になってくれる人。
(どうしたら、わかってもらえるかな)
 ぼんやりと考える。隣にいる彼は、どうしたら『キラだけのアスラン』になってくれるだろう。
(天使だって悪魔だって死神だって……なんでもいいんだ)
 本当に、自分でもよくわからない。彼を、どうしてここまで欲しいと思うのか。死にそうだった自分を助けてくれた人だから? あの時彼は、キラの心の奥深くに抜けない楔を打ち込んだのだ。
「どうかしたか? キラ?」
 困惑したような彼の言葉に、キラはもう一度ちらりと彼を――アスランを見た。
 キラの態度に戸惑っているのだ。眉を下げてこちらを覗き込んでくる彼は、どこから見ても普通の『人』なのに。
「もう……仕方ないなぁ……」
 答えられないんだってば。
 溜息と共に呟くと、サイが何だとこちらを見る。それになんでもないと答え返して、キラは目の前にあるアスランの頭を軽く撫でた。
 こうして触れられるのに、声も聞こえるのに、それがキラだけなんて、本当に不思議でならない。
 でもそれは、キラだけが特別だということの証だった。




*-*-*-*-*-*-*-*

突発天使アス+人間キラ。アスランはデスノのリュークみたいなのを想像してください。リンゴは齧らないですが。むしろ齧るなら桃かな(笑)
急に書きたくなったので書き逃げ。

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2007'01.25.Thu
 ……ソレがそういうもの、という事は、キラにだってわかっていた。芸能界に足を踏み入れてもう何年経つのか。毎日毎日を過ごすことに必死で、色々なことを考える余裕はなかった。それでもやはり、この世界にいるから……一般の人よりは大人なのではないだろうか。だが、だからといって、それを実践するかどうかと言うのはまた別の話で。
「あ~~~、駄目だ、混乱してる……」
 ごんごんごん、と自分の頭を数回叩いて、キラは目の前の枕に突っ伏した。枕の下にそのブツをしまいこむ。四角いフィルムに包まれた、広げると筒状になっているそれ。先程から考えが行ったり来たり、自分が答えを出したい問題には追いつくが追い越せず。考えれば考えるほど見当違いの方向に考えがいってしまうのは……やはりキラが混乱しているからだろう。
「いや、そもそも、まだ何も言われてないしっ」
 ばんばんばん。今度はベッドのシーツを叩く。埃が舞うからやめろとお小言を言う同居人兼幼馴染兼親友兼……恋人はここにはいない。
「……ッ!」
 自分で考えておいて、恋人、という単語にキラは真っ赤になって息を止めた。本当にそういう風に自分たちのことを言っていいのか、キラには未だにわからない。確かに、成り行きとはいえキスをして、告白もした。お互いに同じ気持ちだったこともわかった。それからも、毎日一回以上の口付けは交わしていて。
(……だから)
 この関係が、そう呼んでいいものなら。やはり。
(いつかは……っていうか、たぶん、もう……)
 ここ数日、触れ合うたびにアスランの様子がおかしい、のだ。軽く触れるだけのキスは卒業して、拙いけれど舌を絡める深いキスを覚えた。その頃から、キスをした後のアスランの様子が少しおかしい。いつもの優しい彼には違いないけれど、キラと目を合わせる回数も少なく、割と早く自室に行ってしまう。その理由に思い当たったのは、それが3度続いた時だった。
 口付けの間に、キラがそっと彼の腰に手を回した時。彼も同じようにキラの髪に手を触れてきて――その瞬間、ぞくっと背筋をかけ抜けた何かがあった。痺れる様な甘い疼きが腰の奥に広がって、小さな熱の塊になって。唇を離してから、キラが赤くなってへたりこむと、アスランもキラの肩に額をつけたままじっと動かなくなった。……キラが耐えていたアレに、おそらくアスランも耐えていたのだ。
 だから。乏しい知識の中から、彼との新しい関係を、考えてみたのだけれど。
「うううー」
 他でもない、アスラン相手に、どうこうできる自信がない。かといって、彼にすべてを任せてしまう勇気もない。見慣れている彼の肢体が、最近とても直視し難くて困っているくらいなのだ。こんな風に悶々としているから、余計なんだろうと思う。一度思い切って肌を合わせてしまえば、こんなに意識せずにすむのではないかとも思う。それはなんだか投げやりな考えだが。
(……そうじゃなくて……)
 キラはきゅっと唇を噛む。
(たぶん……アスランに触れたいのは、僕、なんだ)
 カメラに向かって、挑発するような色づいた視線やポーズを撮る彼。雑誌の抱かれたい男ランキングに名前が載るようになって、アスランは前にも増して男の色気を前面に押し出してきている。事務所側の要望もあってだが、どうも彼自身満更じゃない様子で。
 ……だから、誌面ではなく、ブラウン管の奥でもなく、生身の彼を……その全てを、独り占めしたいから。
(独占欲なんて……あったんだ僕)
 以前の自分からは考えられないことだ。アスランの全てが欲しい、だなんて。
(欲し……い……って)
 頬は熱くなるばかりだった。
 そう、だから……彼に、……して欲しいのだ。自分は。
 丸くなってきゅっと身体に力を入れる。彼は一体どんな風に他人を抱くのだろう。
「アスラン……」
 ぽつりと呟いて、更に力を入れる。――と。
「ん?」
 背後から声が聞こえて、キラはぎょっと身体を起こした。
「ア、ア、ア、アスランッ!?」
「ああ、ただいま。……って何そんなに驚いて……」
 ドアの向こうに立っているのはアスラン本人だった。考えに没頭していて扉の開く音に気付かなかったらしい。しゅわしゅわしゅわと顔に血が上る。あっという間に茹蛸状態になったキラをアスランがきょとんと見つめ、次いで口端を吊り上げた。
「なに、キラ。ひとりのオフがつまらなかった?」
「う……まあ、うん……」
 アスランがドアを閉める。密室になった自分の部屋。……何だか息苦しい。
「そんなに寂しかった?」
「う、や、……違っ……」
 ベッドに乗り上げたアスランの膝が、キラとの距離を縮める。さわりと背を撫で上げる彼の手のひらに過剰に反応してしまう。いつもの冗談のつもりなのだろうが、今のキラにはきつかった。
「キラ?」
 顔を覗き込み、アスランが唇を近づけてくる。真っ赤な顔のまま彼からのキスを受けて、そっと目を合わせる。透き通ったグリーンの瞳がキラを捉え、僅かに細められて。
「やっぱりな。何かおかしいな、とは思ってたんだけどね」
「え」
 アスランがキラの唇にもう一度軽くキスをして離れる。
「こんなもの、どこから……」
 呟きながら手のひらを眺めている彼の視線を追って――キラはぎゃあっと叫び声をあげた。
「うわっ、なんでっ?」
「キラが何か隠したのが見えたから。一体誰にもらったんだ? それとも自分で買った?」
「買わないよっ! そ、それはっ……この間、共演した、人に……」
「ああ、あの金髪ロンゲの人? キラにちょっかいだしまくってた? そういえば終わった後呼び出されてたよなキラ」
「う……そう、です……」
「ふうん? それをすんなりもらってきたんだな、おまえは」
「……アスラン怖い……」
「怖い? 怒ってるからな」
 怒ってる。その言葉にびくっとキラは後ずさった。
「これをキラにくれたってことは、あの人がキラに何か妙な感情をもってるからだろ。そうじゃなくたって傍から見てて明らかにおかしかったんだ、お前も少しは警戒しろ!」
「……ハイ……」
 こういう時のアスランには逆らわないほうがいい。キラはおとなしく頷いた。
「これもらって、どうしろって? 何か言われたか?」
「ううん、何も……あ、今度食事にって誘われたような」
「絶対行くな」
 すぱっと切り捨てたアスランに、キラはもう一度ハイ、と頷く。そしてそこで、あることに気付いた。アスランが怒っているのは……これは……。
「アスラン」
「何」
「……えっと……」
 何と言っていいかわからなかったから、とりあえずぎゅうっと抱きついてみる。そう来るとはおもわなかったのか、アスランが驚いたように目を瞬かせた。
「それ、アスランにあげるよ」
「……はあ?」
 顔を彼の肩口に伏せたまま、キラはもごもごと言葉を紡いだ。アスランは訝しげな顔で、もう一度手の中のソレを見たようだった。
「――……アスランに、あげる」
 意味が通じなくてもいいと思って言った台詞だった。呟いて、キラは顔を上げる。だが彼の顔を視界に入れないうちに背中をベッドに叩きつけられた。
「わっ、なっ」
「キラ」
「へ」
 アスランが自分を見下ろしていた。彼の唇がまた自分のそれに触れて。首筋にかかる彼の髪がくすぐったいな、などと考えていたら、今度はその場所にアスランの唇が移動した。
「っ?」
 首筋から、鎖骨へ。ちゅ、と口付け微かに吸い付いてくる唇。ぞぞっと覚えのある感覚が腰に集まって、キラは慌てて彼の胸を押した。
「アスラン、ちょっと」
 冗談のように茶化すつもりが、目を合わせたアスランの表情に言葉を呑み込む。
「……くれるんだろ?」
 初めて対峙した。アスランの、挑発する、欲に濡れた瞳。
(なにこの展開……っ)
 心臓がばくばくいっている。身体が動かない。言葉もうまく紡げなくなった。
(そりゃ、あげる、って……そういう意味も含んでたけど)
 キラからの返事を待っているのか、アスランはそのまま動かずにいる。でもやはり、手も足も口も動かなかった。動いているのは先程から壊れてしまうのではないかというほど強く早く鐘を打ち続ける心臓だけ。視線だけは逸らさずにいると、何故か目尻からぽろっとひと粒、涙が零れ落ちた。
「――――」
 アスランが僅かに目を見開く。キラも驚いて瞬きを繰り返した。涙? 何故?
「……冗談だよ。泣くほど怖かったか?」
 ふっといつもの困ったような笑みを浮かべ、アスランが身を起こした。そうじゃない、と言いたかったが言葉が出ない。離れる背中に反射的に抱きついて、腕に力をこめる。
「あのさ、キラ……」
 言いかけた何かを途切れさせ、アスランが間をおいた。ふうー、と深い溜息。
「とりあえず。キラがそういうこと考えてたのはよーくわかった。人並みに興味があってよかったよ」
「……へ」
「コレは俺がもらっておくから。……然るべき日まで、な」
「あ?」
 然るべき……日?
 内容を理解するより早く、キラの身体は引き剥がされて、再びベッドに転がされていた。けれど、今度は圧し掛かられるのではなく。
「っぎゃー! なにっ、ちょっ、アスランっ! くすっ……くすぐった……っ、あはははは!」
「自分のツメの甘さを少しは反省しろ!」
「はんせ……っ、わかった、わかったからー! 僕が悪かっ……」
 何だかよくわからないまま、ぐったりするまでくすぐられて、結局そのブツはアスランの手に渡って。
 いつだかわからない、『然るべき日』まで、封印されたのだった。

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